第七章 最大の敵③
結のワーブアーツは中距離から遠距離の敵を排除する銃火器型の武器だった。
ユリの手によってそれらは最終形態へと変化していた。
結の周りに十もの筒状の銃器があり、それが時計回りに回転していた。迫り来る、一〇〇体近くものソルアージュ。次々と口内から光線が撃たれるが、結の体に傷一つつけられない。
それは恐らく他の三人も同じだ。すでに視界にはいないが、宗仁たちも結と同じ武器の威力や防御力で、突き進んでいっている頃だろう。
結が手持ちの長身の銃を発砲させた。すると回っていた十個の銃器からも光線が放射され、群がっていたソルアージュをごっそりと爆発とともに減らした。
そこに空間ができ、結はその方向に飛翔していった。
梨央の目前にも鬱蒼と生い茂るかのようなソルアージュの軍勢。
両手にあった二本の長身の剣は、約三〇メートルから一〇〇メートルの距離を取って囲むソルアージュの軍勢に一振で届くくらいに伸びていた。梨央は活気に溢れた表情で、握っていた二本の剣を、一度斜め後ろへ引いた。そしてすぐ横へ斬り払った。
ソルアージュの極端に開けられたおとがいから、続々と光の筋が放出されるも、それを何ともせず光る剣の刀身が吸い込むように滅していき、ソルアージュの群衆、一〇〇体以上を軽く消滅させていった。
「楽勝楽勝!」
梨央の活発な顔色は衰えを知らず、直進しながら同様の攻撃でソルアージュの軍勢を減じていった。
「フ……。馬鹿みたいに倒せるな……」
空中を滑空しながら、光司の体の周囲には、両手合わせて二十もの拳が出来上がっている。
それをソルアージュの群れに断続的に当てていっては、爆風が光司の前髪を大きく揺らした。
「いわゆるチートってやつか……」
光司の意図した方向へ拳の弾が発射される。弾数が少なくなればすぐに補充され、心許なさは皆無だった。
「フフ……フハハハハ……!」
愉悦に浸る光司の前に幾重にもソルアージュの隊列が連なる。しかしそれも片手で軽くいなすように、光司には無意味な有象無象の壁に過ぎない。
さて、この皆平の果てはどこにあるのか。そこにたどり着き、脳内に響くある言葉を唱えれば、この世の最後となり果てた皆平の町を救うことができる。
光司はひたすらに飛行と攻撃を続けていった。
宗仁は皆平市の南側を飛びつつ、ペインパージを休むまもなく発光させては、ソルアージュの大軍を殲滅させていった。
腕輪にはまっていた宝石が話しかける。
「これでボクの言うことは信じてもらえたかな、宗仁?」
「あんたが俺たちを管理する、ネーガ・ナスネスだって言うのはさっきユリさんから教えてもらった。ようやく信じられる要素が出てきて俺もほっとしてる」
「そりゃ何より」
蓄積した痛みを攻撃として発散させるこのワーブアーツは、現状、ダメージを被ることもなく、また体力減退により威力の減少の懸念もほとんどといってなかった。
「見えてきた……」
腕輪にはめ込まれた宝石がそう呟く。
そこにはソルアージュの人影もほとんど見当たらない、ただ山影があるだけの場所だった。
宗仁は山の峰のさらに上方へ行き、片手をそっと伸ばすと、透明な隔たりがあるのを確認した。
腕輪に埋め込まれた宝石が言った。
「他の三人も無事たどり着けたようだね」
「お前には確認できるのか?」
「管理者だからさ。四人それぞれの状態を管理者の部屋から確認できるんだ。……さあ、両手を前にかざしてくれ」
言われた通りにした直後、
宗仁の目と鼻の先の空間が、大きく歪み始めた。だんだんとそれが人の顔になっていくのを目に留めると、宝石になったロドリゲスが言った。
「他の三人にも同様の現象が起きている。これがユリの言っていた、町がソルアージュになった、ということさ」
そう、それはまさに結に似た顔のソルアージュだった。それが虚空に描き出され、宗仁に覆い被さろうと大口を開けて迫ってきていた。
「躊躇している場合じゃない。宗仁、さっき教えた言葉をここで唱えるんだ!」
おうっ! と威勢よく返す宗仁は、息を吸い込み瞑目した。
それは他の三人との連結も意味した。四人が目を閉じ、意識を集中させる。
そして四人は同時に詠唱するのだった。
「閃光、初志貫徹!」
すると、宗仁は光になった。光司や梨央、結も同じく光を放ち、彼らを口から飲み込もうとしてきた超大型のソルアージュの口の中へと飛翔していった。
それは深緑の天空を切り裂く、流星のようだった。
やがて宗仁が目にしたのは、暗いトンネルのような場所だった。
周囲の壁に映し出されたのは、宗仁たちを口で覆おうとしたソルアージュが、星屑になって皆平市の上空に散っていった様子だった。
トンネルを歩いていくと、筒状の壁に寄りかかりながら座る、もう一人の自分らしき人影があった。
その人影は憔悴しきった顔で、脚を放り出し、顔を俯かせていた。
これは? と宗仁がロドリゲスに聞くと、
「もう一人の君さ。君の中で気残りだったことがこうして現れたんだと思う。このトンネルは、皆平市という仮想現実世界とユリのいる現実世界とを繋いでいる。君の中で明確にしておきたいことが最後にこうして訴えかけてきたってことだろうね……」
宗仁はその人影の前でしゃがみ、顔を覗き込んだ。確かに自分に似ている。
「どうした?」
「いくら、俺たちがAIだったとしても……」
声が掠れている。体力が消耗しているのだろうか。
「友達だったやつが死んだり、敵のボスになってしまったりして、何も感情が沸いてこないってのは、どうなんだろうな……」
宗仁はロドリゲスに尋ねた。
「どうやら俺の過去のことを思い出しているらしいが……」
「そのようだね。でも宗仁。すでに過去のことだから自分としては済んだこと話なんだろ? それをこの人に伝えればいいだけなんじゃないかな……」
宗仁はじっと自分と瓜二つの顔を見つめ、
「いいか、俺……。多少、引っ掛かることがあるかもしれないが、俺は光司たちと連携して、敵のボスを倒した……。それはお前の言う、死んだ光司と梨央、そしてボスになってしまった結という、お前が引っ掛かってる『嫌だったこと』に勝利したってことでもある……。皆平市は大変な状況に陥ったが、その原因を作った敵は全て倒した。町が崩壊してしまったのはどうしようもないが……。どうか安心してくれないか……」
座っていたもう一人の宗仁は、微かに微笑んだようだった。
「元凶を倒したんだな。光司や梨央、結と一緒に……。そいつはよかった……。さすが俺だ……」
やにわに、もう一人の宗仁は金粉のようにその場で霧散した。
宗仁は黙って立ち上がると、トンネルの向こうにある光に向かって再び歩き始めた。
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