第六章 梨央の命、光司の命②

「梨央、光司、無事か!?」

 ラーシグの元へ飛行でたどり着いた宗仁は、二人が檻の中にいるのを目撃した。

「今助けるからな!」

 滑空して、二人を助け出そうとするも、視界全体を覆うラーシグの巨体に、宗仁は目眩ましにあったかのように一瞬宙を飛ぶのを止めた。

「まだなのか、ロドリゲス……。まだタイミングじゃないってのかよ……」

「もう少し待ってみて。無理に近づこうとしちゃダメだ。ラーシグは外殻をその都度変えることができる。武器となるのはその外殻を弾のように飛ばすことなんだ……」

「あと何分で、お前の言うタイミングになる?」

 切迫した状況に宗仁は結論を急いだ。

 ラーシグの笑い声が、耳をつんざく。

「イーッヒッヒッヒッヒィィッッ。あっしにとっちゃあんたらを倒すのには造作もないでやす。なぜならあ……」

 宗仁は信じがたい光景に出くわした。

 ラーシグの手にあった、梨央と光司のいる檻を両手で押し潰したのだ。

「これだけ簡単だからでさあ!」

 宗仁の体の内側から激しい慟哭が打ち鳴らされる。

 一見、何が起こったのかわからなかった。

 しかしその光景は、宗仁の目に間違いなく飛び込んだ。

 梨央と光司が死んだという事実が。

「うわああああああっっっ!」

 頭を両腕で抑え込む宗仁は自分の気が動転していることに気付いていない。

「何すんだ、てめえええええっっっ!」

「落ち着くんだ、宗仁!」

 ロドリゲスがなだめようと言い聞かせる。

「今こそ、ボクを宙に掲げてくれ。今が絶好のチャンスだ!」

 涙で溢れる宗仁の顔。悔しくもあり、悲しくもあるこの事実に、ただロドリゲスの言葉が頼りだった。

 宗仁は鼻をすすりながら、くそったれ……と呟き、宝石となったロドリゲスのはめられた手首を掲げた。

 ラーシグはごみくずを捨てるかのような所作でひしゃげた檻を宗仁の方へ放り投げた。

 白く輝く宗仁の腕輪。

 飛ばされてきた檻の残骸からも白い輝きが線を描いて、宗仁の体に集束していく。

「二人から解き放たれた、ワーブェポンの光粒子さ。ワーブェポンの形状を保ち、二人の力と技を含めた、宗仁の新たなるワーブェポンだよ……」

 ロドリゲスの解説に、宗仁は光の集まってくる手首を片方の手で殴り付けた。

「何をする、宗仁!」

「てめえの言ってたタイミングって、梨央と光司が死ぬことだったっていうのかよ……!」

「安心しろ宗仁。二人は死んだわけじゃない。だって彼らはボクらと同じ……」

 宗仁は力一杯、腕輪を殴り続けた。

「俺たちだって生きてるんだぞ! プログラムだかシステムだか知らねえが、少なくとも俺たちはこの世界で生きてるんだ!」

 宗仁が激昂する最中、ラーシグの腕が動いた。腕にも家々が連なり、その先の手とおぼしき部分も家だった。それが宗仁の方へと向けられた。

「ちっぽけなげっ歯類風情が、俺たちの生き死にを操ってんじゃねえ!」

「わかった、わかったよ宗仁! 今は目の前の敵に集中してくれ! ボクと梨央、光司は宗仁と一つになった。ボクが君を先導する。君はこう唱えればいいだけだ」


 敵のわっぱが何やら大きな力を蓄えているようだ……。

 嫌な予感がしたラーシグは、早速そのわっぱを退けようと、家の弾を差し向けた。放てば一軒の家がそのまま飛んでいくという仕組みだ。

「これで一網打尽にしてやる……!」

 小僧が強い光を放ち始めた。

 焦燥感に駆られたラーシグは、出し惜しみすることなく、両腕に纏ったいくつもの家屋を連射しようという心構えに変わった。


 大きな破裂音と共に、家の弾頭が次々と発射されてくる。

 宗仁は梨央と光司、ついでにロドリゲスの力を得ていたため、自分の体に流れる力の躍動がかつて感じたことのないくらいに弾み、発熱しているのを感じ取った。

 一軒の家まるごと宗仁に直撃するが、一瞬通りすぎていった内装を閲覧する感覚にしかならず、もはや痛みすら感じなかった。

 ――梨央、光司……。すまなかった……。そしてありがとう。またお前らに会える日を願ってる……。

 ロドリゲスが唱えろと言った文言を、宗仁は口にした。すでに体は白い光で溢れていた。

「光槍、終始一貫……」

 キラっと数瞬、光の筋がまっすぐに伸びた。ラーシグが連射してきた家の弾幕を間断なく貫き、最終的にラーシグの胸部を貫通させた。ラーシグの背中から、白い一筋の残光が途切れ途切れに伸長し、ラーシグは大きな爆炎と共に消滅した。

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