世界を救った男
転生してから5年の時が経った。
この世界とは異なる世界から転生した青年、シン。
シンはこの世界の驚異となる存在である
魔王を討ち倒すためにこの世界に召喚され、
そしてこの世界の仲間達とともに魔王を討滅した。
長きにわたって続いていた人族と、
魔族との人魔戦争は終わった。
◇ ◇ ◇
シンは王都に凱旋し祝賀会の最中だ。
街はお祭りムードである。
「シンさま、あなたのおかげで世界は救われました」
彼女はこの世界に召喚した大魔術師の一人娘、フレイヤ。
シンとともに旅をしてきた仲間であり、
シンに対して密かな恋心を抱いている少女だ。
シンは少し微笑み、称賛の言葉に曖昧に応じる。
「シンさまは、こんな偉業を成し遂げたのに、いつも通り。本当に謙虚な方ですね」
どことなく憂いを帯びた瞳にどこか儚げな表情。
シンの表情はとてもナニかをなした者のソレではなかった。
◇ ◇ ◇
世界に終焉をもたらす存在を討伐した『転生者』シン。
そのシンを祝うため人族の勝利を祝うために、
王都の広場はどこもかしこもお祭り騒ぎ。
シンはその言葉に応えることもなく、
ただ優しげなまなざしを向ける。
シンは、この世界の存在ではない。
この世界の呪術師による転生魔法で、
この世界に召喚された存在である。
祭りの喧騒のなかシンのもとに見知らぬ少女が訪れる。
少しはにかんだ顔で、少女は背中に何かを隠している。
「どうしたのかな」
シンは、その少女に問いかける。
「勇者のおにーちゃん。世界を救ってくれてありがとう。これ、あげる」
少女は白い花で作られた花かんむりをシンに渡す。
渡したあとは、嬉しそうにどこかに駆けていった。
シンは少し微笑みながらその花かんむりを、
大切そうに、その花かんむりを愛でながら、
誰に言うとでもなく、シンは呟く。
「ボクはね。積木くずしが好きなんだ」
「……積み木くずしですか?」
「そう。高く高く積み上げた積み木を、自分の手で壊す」
「これほどの娯楽をボクは知らない」
「シンさまがそのような趣味をお持ちとは知りませんでし……えっ?」
腹部にブスリと冷たい感触。
しばらくして、熱を帯びる。
この世界の最強と謳われる剣。
聖剣デュランダルが女の腹を刺し貫いたのだ。
「……まさか、魔王の精神干渉……憑依っ……」
「違う違う。ボクは、キミのよく知っている、善良な勇者シンだよ」
「うっ……そんなの……ウソよ」
「ボクがこの世界に召喚された目的は、『魔王の討伐』。ボクはね……キチンと契約を履行した。義務は果たしたんだから、あとは何をしても良い。そうだよね?」
少女は何も答えない。
――否。喉に血の塊がつっかえて言葉を発せないのだ。
まるで気にしないように、シンは言葉を続ける。
「契約は果たした。ボクがこの世界に転生させられた理由は、魔王の討伐……それはボクが成し遂げた……つまり、ボクを縛り拘束するモノはナニもないってこと」
少女は、シンの前でドサリと倒れる。
しばらくするとこの異常事態に幾人かの人間が気がつく。
目の前の信じがたい光景に、周囲はザワツキはじめる。
「ボクは契約に従い世界を救った。ボクがこの世界に来ていなければ滅ぼされていたような脆弱な世界。……だからさ、救ったセカイを、救うのも、壊すのもボクの自由だよね?」
シンは見知らぬ少女からもらた花かんむりを頭に乗せる。
〈この世界〉では見せたことのない、
満面の笑みを浮かび小さく呟く。
「さあ。はじめようか。ここからが――本編のはじまりだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます