episode±11[それは果たして偶然だったのだろうか]
「八飛宮さんって一人暮らしなの?」
「いいえ。違いますよー。弟と妹と三人暮らしです」
「3人?ご両親は別なの?」
「いいえ。両親は、いません」
「…え?」
「今からだと、4年前ですかね。亡くなりました。交通事故で」
「……そうなんだ。なんか、ごめんなさい」
「あ、いえいえ!もう私達も引きずってませんし、気にしないでください。それに、そう思えてないと、同級生って言ってもこんな簡単に話しませんよ」
と、やや微笑みながら八飛宮が言う。
しかし縫至答にとっては、それが気を使われているように感じてしまう。こう言うことを気負ってしまうのが、縫至答の性格でもあった。
「…そうなんだ。ご兄弟は寂しがってたりしないの?」
「流石に覚えてる年齢ではあるので、最初の頃は大変でした。けど、3人で暮らすようになってからは、割と吹っ切れているのかもしれません。私のいない時とか、学校の帰りとか、そう言う時にもしかしたら何か、とは思いますけど、そこまで二人が気遣ってくれるなら、しばらくは甘えてみようかなと」
「大人だ、八飛宮さん」
「いえいえ全然そんなことないですよ!」
「私じゃなかなかできないよ、そんな気遣い」
「そうですかね。ありがとうございます」
えへへ、と頭を掻く八飛宮。まるであざといアイドルのような仕草だが、特に意識や計算をしている雰囲気は皆無で自然にしている感じがあり、嫌味はない。
「すごいね。大変だねぇ…」
「まあ、楽ではないですかね。親戚に頼っているわけでもありませんし」
「え?!どうやって生活しているの?!仕送りとかないの?!」
「ないですよ。すごいリアルな話ですけど、両親が亡くなった時の保険と、遺族基金とかと。あとは奨学金と、学校に許可とって少しだけバイトしてます」
「バイト?!結構勉強ついてくのも大変でしょ?それでもバイトしてるの?」
「はい。境遇も全部伝えて、許可はいただいて、正式になので、成績は大目に見てもらってます。甘くはないですけど」
と、これもまたはにかみながら八飛宮が告げる。
「…すごいね」
「成績は良くありませんし、そんなに稼げないですけど。私が、あの二人と一緒に生きて行きたくて、わがままでやってることなんで、がんばらないと、って思って。一時期バラバラにいろんな親戚に引き取られたんですけど、やっぱり嫌でいろんな制度使って、今の環境に落ち着きました。二人ともいろんなこと頑張ってくれるし」
「うわぁ…サバイバルだ」
「そうですかね?もう割と慣れっこですよ」
「そうなんだ…すごい。尊敬する」
「ええ?!そんな、成績トップの縫至答さんにそんなそんな!」
本気で、恐れ多い!と言うようなニュアンスで恐縮する八飛宮。
「いや、ほんとに。私なんかじゃそんなことできない。仕送りももらってるし。まあ、少しだけ別の収入もたまーにあったりするけどね。一人暮らしになれるのもすごく時間かかったしね」
「一人暮らしって大変じゃないですか?私はなんだかんだでしたことないんですよ」
「そっか。でもまぁ、なれると結構楽かなぁ」
「そうなんですねー。いつかしてみたいなぁ」
「…このあと補習だっけ?」
「ええ。あと、自習ですね。家だとなかなか勉強できないんで」
「ん?なんで?」
「私、自分の部屋がないんですよ。2人に使わせてるので。休日とかあの2人が元気に遊んでるので集中できなくて」
「大変だ」
「まあでも、学校が近いのが幸いしました」
自分はまだまだ普通の環境だと思っている縫至答からしたらかなり負荷の高い大変な環境なのに、八飛宮はそれをまるで当たり前のように話し、しかもふんわりと優しい雰囲気が一切変わらない。大変さもありつつ、しかし両親の死を乗り越えて、努力して望んだ環境を作り上げ、それはそれで幸せなのかもしれない。
「ふーん。そっか。もしよかったらときどき家に来てもいいよ。もし必要なら教えて上がられるかもしれないし」
「ええ?!本当ですか!?学年主席の縫至答さんに教えてもらえる?!」
「う、うん。も、もしよければだけど」
縫至答は、全く予想しなかった勢いでリアクションする八飛宮にたじろいでしまう。
「お、お願いします!!」
「うん。じゃあ、そう言う時は遠慮なく言ってね。予定合わせよう。って言っても私結構家にいるから」
「わかりました!ほんとにありがとうございます!」
「いえいえ」
こんなに喜ばれるとは思っていなかった。きっと弟妹を家に置いて近いとはいえ、休みのたびに離れた学校で自習すると言う環境では、2人のことが気になってしまうのではないかと思った部分もある。
そんなことを話していると、校舎が見えてきた。
休日用の校門を過ぎる前に携帯電話の情報を交換し、昇降口を経てから別れる。
遠くから吹奏楽部の練習の音色や、運動部の掛け声がうっすらと響いている。やはり活動している部活がある。となれば、どこかに部活の顧問もいるはずだ。とすれば、部活設立に関する手続きや条件は確認できる見込みはある。
「さて」
縫至答はその足を職員室に向けた。
星を繋ぐために必要なのは、きっとその先の未来を共に見たいと言う意志だ。
星が夜空に描く
しかし、回り始めた歯車は噛み合ったが、止まることを知らないその機構が、同時に試練も連れてくる。
Continue to under the Moonlight
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