episode±6[絶望の寛解と希望の遊戯]
" 私は、正直なところ性格が良くない。
なんというか、卑屈というか、ひん曲がっているというか、一筋縄ではいかない、異性からは面倒なやつと思われる様なタイプだ、と自覚している。自覚というのが正解かどうかは知らないのだけれど。
だからだろう。
面倒だと最初はあしらわれていた。それはそうだ。ろくにコミュニケーションも取らず、お互いの性格をよく知りもしないのに、単に鼻につくからみたいな理由で売られた喧嘩なんて、大安売りしてる私ですら買いたくない。
けれど、ある時からそいつはその喧嘩を買ってくれる様になった。もちろん、当たり外れみたいな感じで、そうでない時もあるのだけれど。
私のコミュニケーションの取り方は極端なのだ。
だから、そういうやり方でしかできない。素直になるのなんて恥ずかしくってできたもんじゃない。
けれど。
それでも。
それでも私は彼女がそれだけに気になっている。治りかけの風邪の、最後の抵抗の様に喉に残った咳の様に。"
頭の中は、
自分は、本当は何がしたいのか。
そんなことをぼんやりと思考しつつ、もはや意識せずとも歩き回れる施設内の、テラスを覗くと、やはり四人が話していた。少しだけ、縫至答の歩調が早くなる。
「あ、のうちゃん!」
いち早く華厳が見つけてくれる。
「お疲れ様です」
「縫至答くん。実は今話していたんだが、もしよかったらみんなこれからうちで夕飯でもどうかな」
唐崎の父ー
どうやら華厳と唐崎はかつての絆を取り戻した様で、お泊まり会をするらしい。明日は、そういえば休みだった。
縫至答は、けれどそれを辞退しようと思った。理由としては、久しぶりの二人の楽しみを邪魔するつもりはないこと、とした。本心ではあったが、正直いろんなことが起こりすぎて、少し疲れていたというのもある。
西央も辞退するつもりだったという言葉もあり、研梓が無理強いするつもりはないし、今後もこういう機会はいくらでも作れるだろうからね、とやや意味深な発言をしたが、今の縫至答はその違和感には気づかず看過するだけだった。
縫至答と西央は帰りの電車に乗り自分たちの最寄り駅まで帰ると、その日1日の終わりをゆっくりと告げる様な真っ赤な夕日の照らす帰り道の中に並んで影を伸ばしている。
縫至答が西央に自宅の住所を尋ねると、縫至答の家と意外にもほど近い。その地域は校舎までの距離の関係もあって、ただでさえ私立酉乃刻高校の生徒が多く住んでいる印象ではあったけれども。それゆえ、2人の帰り道は長く重なる。
駅前の商店街を抜けた、閑静な住宅街の中を、影は進む。すれ違う人も少なくなってきた。帰宅ラッシュまではまだあるし、主婦なんかはもう夕飯の支度をしている時間だ。子供達も解散して帰宅している様な時間帯。
「それにしても、なんか、すごい1日だったなぁ」
「そうですねー。こんなことなかなかありませんね」
「ね。もしかしたら一生に一回かもね」
「ですね」
と、少し笑い合う2人。
「ね、西央さん」
「あれ?べにちゃんじゃないんですか?のうちゃん先輩」
「……慣れるまで待って」
「あはは」
「敬語、じゃなくていいよ。ただ一年早く生まれただけで、別に何も偉くないんだし」
「そうですかね?」
「莉理亜ちゃん風に言うと、もう友達なんだし!って感じ?」
「はい……じゃなくて、うん」
西央の顔に少しだけだが微笑みの色が射す。
「ありがと、西央さん」
「いーえ、のうちゃん先輩」
「な、なんか照れるなぁ」
「そう言われると、確かに。あ、私あの辺の角で右なんですよ」
「ああ、そうなんだ。そこからどれくらい?」
「3分もないくらいです」
「本当に近いんだね。私は直進であと5分くらいかな」
そして西央と縫至答の道が別れることを伝えあった、その時である。
空が、紫色に反転する。
「…ごめん。西央さん、ちょっとこれ持って、離れてて」
「…え?あ、うん。え?」
縫至答からカバンを受け取ってその場で西央が立ち止まるが、縫至答はさらに10歩ほど進む。
「いちいち演出しなくていいから、早く出てきてよ」
縫至答が、独り言の様に呟く。
すると、西央が曲がると言っていた一本手前の角から、人が向かってくる。
縫至答、西央などと同じ私立酉乃刻高校の制服。胸元にきちんと結ばれたリボンタイの色は、二年生であることを示すエメラルドグリーンのそれだった。
「全くあんたは。もう少しムードってものを考えないの?」
「結界引いた時点でそんなもの関係ないでしょ?」
「もっと禍々しく登場しようと思ったのに」
「神々しくじゃなくて?」
「あ、そっちだ。って、うっさい。今日はやらせてもらうわよ」
「断ると面倒だから付き合うけど、私の後ろに友達いるから、気をつけなさいね」
「…友達!?あんたに友達なんていたの!?」
「今日知り合ったの。別にいてもいいでしょ」
「いなくて有名なあの縫至答乃に!?友達!?
「友達いなくても家族はいるでしょうが」
「やばい!なんて日だ!」
「私も、あなたとは逆の意味でそれは思うけれど。って言うか、西央さん待たせちゃってるから早くして」
「はいはいわかりました。ん?」
「何よ」
「いや、確信がないからいい」
「??」
「それじゃ行くわよ」
そうして道端の花壇から小石を一個拾って頭上に放り投げた。
そしてそれが、地球の重力に逆らい尽くして空を目指すことをあきらめ落下を初めて地に落ちた、その瞬間に。
まず、縫至答の姿が瞬間的に移動したかの様に搔き消えた。
Continue to Under the Moonlight…
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