episode ±5[混ざる涙の出す結論]
"きっと私は、悪い夢を見ているのだろう。
きっと私は、それも認められるほど心が強くない。
けれどあたしは、その敵を倒したい。
救えるかどうかじゃない。
守れるかどうかじゃない。
ただ、彼女をそんな目に合わせたその敵が嫌いなだけのわがまま。
わがまま。
でも、あたしを作っているのは、きっと大半がわがまま。
なら。
それでも仲良くしてくれるなら。
友達でいてくれるなら。
あたしは自分を作っているわがままを、人のために使いたい。
それが結局、あたしのためになる。
友達でいてくれるなら。
また、笑ってくれるなら。
どれだけ嫌がられても。
君のためになるなら、悪者にだってなるんだよ。
それが、あたしが決めた、あたしのわがまま。"
華厳が走っていった先にはまだその華厳を認識していない唐崎がいた。
「…え?」
唐崎綺玖蘭がその華厳莉理亜に気づいた途端のことだ。
それは、今まさにラボの出入り口の扉が閉じる瞬間だった。
パン!
と、やや小気味のいい音が響く。
離れた場所いいる西央と研梓は、その音の正体が分からなくあっけにとられている。
「……この、大バカもの!」
ゆっくりと手を頰に当てて、そこを抑える綺玖蘭。
「…………え…………?」
何が起こったのかわからない、という表情を浮かべる。
それも、当たり前のことなのかもしれなかった。いつも通りに定期検査を終えていつも通りに待合室に戻ったら、いつも通りではないことが起きた。
中学時代の同級生に、頬を張られたのだ。
唖然としてるとまた違う衝撃が彼女、綺玖蘭を襲う。
「………気づけバカ!」
罵られている事実に気づけないほど呆気に取られた綺玖蘭は、その華厳莉理亜の涙声の一言のまさに直後に、その華厳に思い切り抱きしめられていた。
「……え……え?」
全く状況が理解できない綺玖蘭を他所に、華厳は続ける。
「バカ!!この大バカもの!」
怒鳴る華厳の言葉はもう、かろうじて言葉が聞き取れるかどうかというほどに嗚咽にまみれていた。
「なんで…なんで何も言わないの。なんで、連絡してくれなかったの。あたしからしなかったのも悪いかもだけど……そんな思いしなくていいんだよ」
ゆっくりと、じんわりと。
「なんで。なんでくらんちゃんみたいないい子がそんな目に合わなきゃいけないの?間違ってるよ」
着実に、確実に。
「え、えっと……」
「誰がなんと言おうと!本人が何を言い訳しようと!そんなの絶対に違う!間違ってる!!くらんちゃんは……」
強く、優しく。
「これからくらんちゃんの世界を造り直す手伝いをする。もう決めたから、反論はさせないこれが、あたしの守り方」
柔らかく、まるで包み込む様に。
「…くらんちゃんは、すごくいい子なんだよ?大好きで、大好きな人で、大好きな人なの………なんであたし、守ってあげられなかったのかなぁ……」
しっかりと、唐崎の心に沁みていく莉理亜の想い。
「え、えっと、りりあん?」
「莉理亜。華厳莉理亜」
「あ、り、莉理亜」
「何。綺玖蘭」
「ど、どうしたの」
「お前が超絶心配になったに決まってんだろうがボケェ!」
「え、ええ!?」
「バカ、もう本当にバカ。これ以上言わせる!?」
「な、なんで……」
そこで、抱きついている華厳の奥に父の姿をようやく発見した綺玖蘭。
「あ……そっか。聞いちゃったのか」
「当たり前だ。どれだけの人が綺玖蘭を心配してると思ってる!」
「……ご、ごめん」
「違うでしょ!!前に決めたでしょ!」
「え?…あ、あの約束まだ有効なんだ?」
「ずっと!ずっと有効!無期限!!覚えてるなら!!」
「……ありがとう」
その一言に、華厳が破顔する。
「……こちらこそ、その約束覚えててくれてありがとう」
「だって……一番大事な約束だから」
見つめあって。
額を合わせて。
確認する様に見合って。
泣き崩れる二人。
「なんか、いいなぁ。素敵」
西央の独り言である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます