ショートショート未満

@takashige

第1話 定時な人種

 かつてN国は、勤勉な国民性と長寿で評判な国であった。

 現在のN国は、過労死に代表される残業、仕事の無計画性から、"時間を守らない国"と評判となった。寿命も、生命維持の長さではなく、ADLに支障のない健康寿命が重要視される様になり、N国はこの差か大きく、ますますN国の評判は低下していた。


 この状況を打破したい政府は、前進的な改革を行った。

"体内時計をセットするプロジェクト"である。その名の通り、実際の身体に体内時計をセットするのだ。


 プロジェクトが始まった当初、反対の声は多くあった。しかし、残業の蔓延を疑問視する人々が率先しプロジェクトを受けはじめた。次第にプロジェクトを受け入れた人々は"定時な人種"と呼ばれるようになった。

 "定時な人種"は、早寝早起き、始業終業時間、休憩時間を守るよう行動をプログラミングされる。限られた時間での仕事は効率化され、余暇活動によるリフレッシュ、睡眠時間が確保され健康的な生活を送る"定時な人種"は、充実した人生を送り、誰もが羨む人種へとなった。

 気付けばN国民のほとんどがプロジェクトを受けていた。健康的な生活を送ることにより健康寿命は伸び、消費は増加。先進国としては異例のGDPの伸び率を遂げた。


 諸外国からのN国の評判は変わった。

国家単位での顕著な功績は、世界から表彰されることとなった。N国首相は、表彰式の行われる諸外国へ降り立ったが、突然の睡魔に襲われた。

 体内時計の時差調整を忘れたのだ。

 N国首相は慌てて管轄部署に連絡するが、「ただいまの時刻は業務時間外です」とAIのアナウンスを聞きながら眠りに落ちるのであった。

 再びN国の評価が、"時間を守らない国"と評判が落ちることを思いながら。

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