第2話
「…うん。無事に死んだわね。今、蒼が飛んでる辺りが、所謂リスポーン地点と言うやつよ。」
蒼がVR酔いしない質であることを確認した後、楓は彼に対し説明をする。
「まぁ、初めて急降下爆撃機に乗ったのだから、最初は皆ああやって地面に突っ込むわ。気にしなくて良いわよ。」
「う、うん。」
「それに、最初の爆弾投下で一応数両は撃破してるしね。」
「え?あ、ほんとだ。」
言われて、敵の居る辺りを見てみれば、確かに煙を上げて動かなくなった敵の車両…トラックが三台ばかり見えた。
「残りは、17ね。どうする?もう一回チャレンジする?」
「い、いや。うーん…どうしよう?」
先程の墜落の精神的衝撃を思いだし、蒼は少し躊躇する。
「…そうね。じゃあ、お姉ちゃんがお手本を見せてあげるわ。それを見て、やれそうなら、蒼も来ると良いわ。そうしましょう?」
「う、うん。それなら。」
「じゃあ、先に行ってるわ。」
そう言って、楓は敵の車両群へと自機を向かわせた。
「じゃあ始めるわ。よく見ててね。」
一言、蒼に告げた楓は自機を滑るように落とした。
一瞬左に機体を振り、その後瓶の首をなぞるように機体を滑らせる。
トン、ト、トン。
機体の滑るに任せて、奏でるように翼下の爆弾を投下する。
ドン。
ドドンと轟音がなる。
身を寄せるように固まっていた二両、さらに四両、そして二両を沈黙させる。
急上昇。
速度を殺し、縦方向へのロールを行う。
お手本の様に滑らかな宙返りだ。
宙返りを終えて、再び機体が水平に戻ろうとするところで、再度機首を地面へと向ける。
先程の爆撃による撃ち漏らしへの再攻撃。
今度はそれを機銃で行う。
タタッ
何かを確かめるように短く射撃。
タタタタッ
7.7mm機銃の軽やかな射撃音が響き、銃弾がターゲットへと吸い込まれていくように飛んでゆく。
ドン。
と、目標の車両が爆発四散する。
だがしかし、楓はそれに目をくれることもなく、自機進路上にあるターゲットをスコープに納め、トリガーを引き、機銃を放つ。
時折飛んでくる対空機銃を気にも止めず、ただ淡々と地上を走る軟目標…トラックへと機銃を叩き込む。
敵集団…といっても最早四両しか残っていないが、それらの真上を悠々と通過し、スロットルを絞り、僅かに速度を殺しながら再度反転。
先程よりも、バラけている目標に対して小刻みに機体を操りつつ機銃をお見舞いする。
…ドン。
荒野に、最後の爆発音が響く。
結局、楓が敵を殲滅するのに一分かからなかった。
「まぁ、こんな感じよ。どう簡単でしょう?」
「う、うん???…これ、簡単なの??」
「ええ、今のは割と基本的な事しかしてないもの。初歩の初歩よ。さぁ、そろそろ敵がリポップするわ。位置について。」
「待って楓ちゃん!位置って!?」
「高度1200メートル、蒼の位置から10時の方向よ。…あら、今回はリポップが早いわね。さあ、蒼。攻撃開始よ。」
「え?待って、良く分かんないけど!」
「あら。大事なことを忘れてたわ。攻撃をするときは必ず、
「ええっ!?何が!?」
「さぁ、ほら早く。」
「え?え?
それから二時間。
蒼は楓にしごかれまくった。
急降下と急上昇、左右旋回を息つく間もなく繰り返し、地上の敵へと攻撃を繰り返す。
その最中、蒼はこのゲームのシビアさを確認すると共に、奇妙な高揚感を覚えていた。
それは、機体に理想的な挙動をさせられた瞬間。
自信の狙いと寸分過たず、敵へと命中弾を出した瞬間。
ふと集中力が切れ、周囲を見回したときに空の青さと果てしなさを見た瞬間。
880馬力のエンジンを嘶かせ、空を泳ぐ。
コンピューターで再現されたものとは言え、蒼は確かに空を飛ぶ事に歓喜を見出だしていた。
「…はぁ。…ふぅ。」
「…疲れてるみたいね蒼。今日はこの辺りで切り上げましょうか?」
「う、うん。流石に疲れたよ。」
「でも、楽しいでしょ?このゲーム。声で分かるわ。」
「あはは、やっぱり?…でも、ゲームなのに何でこんなに疲れるんだろ?」
「そうね、それだけ熱中してたってことじゃないかしら。どんなことであれ、集中すれば疲れるものよ。さぁ、一旦切り上げて、お風呂にでも入ってゆっくりしましょ?」
「うん、そうだね…一応言っておくけど、一緒に入ったりはしないからね?」
「…………分かってるわよ。」
そうして二人はゲームからログアウトする。
夜、蒼は普段よりも少しだけ口数が多かったと言う。
いとこの姉ちゃんがプロゲーマーだった。 トクルル @TKLL
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