【第三部】第三章「交際と未来の行く末」



**


 日を改めて、ひのは「京介に告白をする」と決めたはいいのだが、肝心の彼奴はいるわけが無く。ひのはむずがゆくじれったい気持ちを抱えていた。


 「あー、何よ!あいつ、肝心な時に限っていないじゃん!」


 そう言って、結局、彼女は今日一日奔走しているわけである。




 ひのは、諦め、帰るため荷物を整えた。そして、気分転換に学校の近くにある河の橋のへりに立ち、ぼーっと行く人たちを眺めていた。


 「はぁ、私が願った何もかもは、全て思うように行かない。あの昨晩の熱い勝負が嘘みたいに覚めてく。結局何もしないまま女子高生として終わるんだわ」


そして、流れる冬の川を眺めていた。河川敷を見る。すると、一人の金髪の男がタバコを吸いながら物思いに耽っていた。


 「あーっ!」


 ひのは、彼を見つけると走り出した。




 「あ、やばい、なんか来る!あれ?ひのじゃん。……でもなんか鬼気迫る顔で追ってきてんだけど。めんどくさいから逃げよう」


 京介も、何か感じたようで走り出した。しかしひのは足が短かったのか、なかなか追いつけない。




 そして、一時間程走り、ひのは立ち止まり、河原の土手に座り込んだ。諦めたようだ。京介は不信に思い、ひののもとに引き返す。そして、彼女を上から見下ろした。




 「なぁ、何でさっき、俺を追いかけてき……たあああああ!!」


 ひのは隙を見て、京介の腕を掴んでそのまま土手に投げ飛ばした。冬の湿った枯れ草の野原に。京介は投げ飛ばされる。受け身を取り、ひのが上から見下ろす立ち位置になった。


 「してやったり!背中冷たいでしょ!」


 「あー、もう、風邪ひいたら看病こいよ!」


 「私の料理がまずくてもいいなら行くよ!」


 二人は、大きな声でおかしくなって笑った。ひのがツボにはまった瞬間、京介は、ひのの足首を掴むと、隣に引きずり倒した。そのまま京介は言った。


 「ざまあみろ!お前も風邪ひいちまえ!」


 そうして面白おかしく二人で笑った。ひのは真面目な顔で横を向き、京介に言った。


 「ねぇ、京介。私と付き合って!!」


 「へ?何言ってんだ?」


 「私、京介の事が好きなの!」


 言葉に詰まる京介。赤面し、ひのから顔を反らす。少しして京介は言った。


 「俺もだよ。お前と居ると楽しい」


 そのまま二人で引き続き日が暮れるまで寝っ転がっていた。


 そして、数日間、仲良く風邪をひいてしまったとさ。




**


 二月。


 「えー、私、東上 敦(とうじょう あつし)に清き一票、宜しくお願いします」




 「あいつ、卒業した『東上』の弟だろ?なんか胡散臭いよな」


 「でも、凶暴な兄とは違うらしいぜ?」


 「お前、誰に入れる?」


 「俺は『佐川 みやび』先輩だなぁ。あのクールな美人。たまんないぜ」




 桜坂高校。生徒会選挙。実は、転入してから美鈴が急遽生徒会長になっていたが、三月で卒業すると言う事もあり、新年度の会長候補を決めることとなった。今年の立候補者は三名。


 「東上 敦(とうじょう あつし)」は兄、正宗(まさむね)の弟にあたり、兄に対しコンプレックスを持っている。その為、意を決して学校を不良の道に歩ませまいと出馬した。成績優秀で完璧主義者だが、どこか抜けている。


 続いて、「佐川 みやび(さがわ みやび)」彼女は女子にとても人気がある、体育教師「大沼 十和子」を小さくしたような性格だ。容姿端麗で、その滑舌の良さから筆頭候補者ではないかと噂されている。




 そして……。


 「私、浅葱 ひのを宜しくお願いします。個人的なお話をさせて頂きます。桜坂高校に在籍して二年間。とても楽しい思い出でした。私は正直言って、人の上に立てるような存在ではありません。しかし、私を応援してくれる、たくさんの友人の力があり、ここに立っている事実があります。一番の理解者である彼、『龍崎 京介』もその一人です。最初、私は『人望を得たいと空回りをしていたような生き方をしていました』しかし、周りの人に支えられて、京介の『真の魅力』に気付き、『人望は得たくて得られるものではない』と思いました。改めて私自身の愚かな考えを打ち砕かれ、そうして今までご迷惑をおかけした学校に少しでも恩返しをしたいと思いました。卒業まで何が出来るかは全く分かりません。しかし、どうかこのふつつかな者に清き一票を宜しくお願い致します」


 ひのと京介は深々と頭を下げた。盛大な拍手が巻き起こる。そして、二人の立候補者も涙を流しつつ、ひのの言葉に力づけられていた。




**


 ――四月。


 新入生の入る時期。京介とひのは手をつないで校門に立っていた。


 「あれから一年。とても大きな変化がいっぱいあったね。でも、楽しかった」


 「ああ、でも、これで終わりじゃない」


 「ほら、新しい生徒が入ってきたよ」


 「会長、挨拶して。ほらほら!」


 京介は金髪だった髪の毛をすっかり黒くしていた。そして、ひのは嵐のように迫る、新入生の波に、もみくちゃにされていた。


 「あああ、私身長低いんだよ!!助けて京介!!」


 「おい、今行くから待ってろ」


 ……京介とひのは思った。私たちの戦いはこれからだっ!




**


 ――そして、今に戻る。


 「懐かしいね。これ、あの時の写真。よくやってこれたよなぁ」


 「そうそう。あの時のキョウはかっこ良かったよねぇ。今はこんなぐうたらおじさんになっちゃって」


 ひのは溜め息をついた。そして、京介は言った。


 「楼雀組十四代目、今度お前に代わって俺が引き継ぐんだろ?お前、言ったからには責任取ってくれよ?頼むよ、『若虎の嬢』!!」


 ひのは笑いながら大きなおなかを擦っていた。








―――――終わり。

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