【第二部】第三章「兄、生まれ故郷に踏み込む」



 翌日昼。桜坂高校校門前にて。


 「急に呼んですまないな。俺はちょっとうちに戻る。お前らはしばらく町でぶらぶらするなりして、時間を潰しててくれないか?さっき幹部から急な電話があってな」


 ひのと宗一の父はいつもと違った険しい顔つきで言う。それを察したのか、宗一と美鈴は無言で頷いて、車を降りることにした。父は酒を飲み過ぎたのか二日酔いの頭でふらふらしている。




 「確か、みーさん、ここらへんにお母さんの実家あったよね?」


 「はい。そうですよ。昔はここら辺で暴れたものなんですがね」


 うっとりと頬を染めて過去の思い出に浸る美鈴。




**


 キーンコーンカーンコーン!軽快な終業のベルが校舎から鳴って、昼休みに突入する。それと同時に校舎から昼食を買いに行く生徒がぞろぞろと出てきた。


 「腹減ったー」


 「あ、よく見れば宗一じゃんか!!」


 「お前生きてたんだな!!」


 宗一の顔見知りの友人たちが宗一の顔を見るや否や暖かく歓迎してくれた。


 「お、おお。久しぶり。かれこれ半年くらいヨーロッパの方、漂流してたようなもんだから、顔覚えられてないかと思ってたよ」


 「そんな訳あるかよ!お前浅葱兄妹はこの学校でかなり名が通ってるんだぜ」


 聞いて苦笑いをする宗一。俺も俺ならひのもひのか。 宗一は思った。


 「ひのは元気にしてるのか?」


 「おお、最近、龍崎京介って怖い奴と仲良くやってるみたいで、たまに学校で暴れまわってるみたいだぞ」


 相変わらず何やってるんだ、アイツは。宗一はあきれ顔。


 「それはそうと、そこの和風美人の女性はお前のこれか?」


 にやりと笑って小指を立てる友人。


 「え?私のことですか?」


 蚊帳の外に居て、周りの景色に見とれていたのか、美鈴は急に来た友人の無茶振りに、戸惑い気味に反応する。


 「ああ、紹介が遅れたよ。暮崎美鈴さんって言ってだな、俺のいとこにあたる人だ。ちなみにお前らとタメ」


 「えええええ?!見えないよ!!!」×3


 あまりの大人びた雰囲気を持つ美鈴に驚く三人の友人。


 「暮崎美鈴です。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げる美鈴にぼーっとして見とれてしまう。


 「お前も水臭いなぁ。親戚にこんな美人いるなら紹介してくれればよかったのに。」


 「そうだよ」


 にやにやしながら肘で宗一を突っつく友人たち。そして、積もる話もあったのか、宗一を羽交い絞めにして校舎の中へ引き込んでいった。


 「美鈴さん、すまない。俺らコイツと話があるから、また今度お茶でもしましょう!」


 「Good bye!」


 やや下品に男子生徒は投げキッスをして宗一をつれ、引っ込んでいってしまった。


 「離せぇええ!」


 宗一の虚しい抵抗が響き渡った。




 「一人になっちゃいましたね。仕方ない、市街地に行きますか」


 一時間ほど、市街地に出て買い物をしながら散策をしていると、美鈴にも偶然の出会いがあった。


 「あ、姐さん!!お久し無礼です!」


 ちょっと身長が低めの赤い髪の女の子が人懐っこく美鈴を見つけて走ってきた。


 「『無礼』じゃなくて『振り』ね。それと、今は総長じゃないから。」


 「失礼いたしました!!」


 「久しぶりだね、リツカ。元気にしてた?」


 「ええ、それはもう」


 「立ち話もなんだし、そこの喫茶店に入って話でもしますか。奢るよ。」


 「わーい!」




 ――――店内。


 「昔はいい時代でしたねー。総長が居た頃の黒蝶と赤蜥蜴(アカトカゲ)。ちょうど姐さんが仕切ってた時、レディースのバブル時代って言っても過言じゃなかったですよ」


 「だねー。リツカの表現が古い気がするのは置いといて」


 「姐さんなんか、首都高で爆走した後、河川敷でサシの喧嘩になって、日本刀で相手を切りつけて。かっこよかったなぁ」


 「シー、ここで人聞きの悪いこと言わないの!!」


 美鈴はちょっと恥ずかしそうにメニューで顔を隠しながらリツカを黙らせる。


 「それはそうと、リツカ、この後暇?」


 「高校中退したんで時間は有り余ってますよ」


 にぱっとシャレにならないことを言うリツカ。美鈴は苦笑いしながら続けた。


 「巴さんのとこ行ってみようよ」


 「あ、いいッスね!!」


 人との出会いはろくな波瀾を生んだことがないと、この物語では証明されているらしく、同時刻、京介は寒気を感じたらしい。(後日談)




**


 一方、一時間前の学校。


 「へぇー、そうだったんだ」


 「相変わらずお前は大変そうだなー」


 昼休みの残り時間をフルに使って、宗一は友人との談義に花を咲かせていた。因みに宗一は休学扱いになっており、学校に籍はあるらしい。その時、割って入るようにタイミング悪くアナウンスが流れる。




 ――ピーンポーン!


 「えー、3年B組浅葱宗一君。帰宅していることはお父さんから聞いています。それなりに重要な話があるので、校長室まで来るように。」


 


 「……お前、なんかやらかしたのか?」


 「いいや、別に。」




**


 ――――校長室。


 「相変わらずええ身体してるのぉ」


 校長は窓から体育をする女子の姿に夢中になっていた。宗一が入ってきたので、急いで回転いすを回して机の正面に向きなおした。


 「校長、何か言いましたか?」


 「ゴホン。いや、君を呼んだのは、言うまでもなく次期生徒会長の話でな。」


咳払いをして話を進める校長。あくまでも冷静を装っている。


 「ま、まさか俺に任せるっていうんじゃないでしょうね?!」


 宗一はちょっとドキドキしながら言葉を紡いだ。


 「いや、そうじゃないんだ」


 「ですよねー」


 肩を落とす宗一。




 「……君のいとこはとても不良を統率するのが上手いらしくてな、最近耳に入ってきたんだよ。うちの学校は転入生が最近増えてきてな、嬉しいことなんだが、しかし、ヤンキーばっかりなんだ。二年生の龍崎くんを筆頭に、君の妹のひのさん。それからそれ以外にも、ここいらで名の通ってるようなヤンキーがなぜか集まっててな」


 「あ、ひのはただのやんちゃな奴なので、ヤンキーではないと思いますが。」


一端呼吸を入れて校長は続けた。


 「確かに君の勝負運の強さ、人脈の広さと、語学から成績の優秀さは買っているんだ。買っているんだけど、親父さんがうるさいだろー、なんかこの前もヨーロッパ飛び回ってて、結局半年は帰ってこれなくて。可哀想なんだが、学校になかなかいられないキミを会長って訳には……」


 「仰るとおりです」


 宗一は拳を握りしめて泣いた。因みに校長のご厚意か分からないが、宗一の登校できない間の単位は海外留学として扱われているらしい。ヤクザの裏権力なのかなんなのか。


 「だから、暮崎美鈴さんをうちの学校に入れて、学校の改変をして行こうって話でな、この話も、四月の生徒会総選挙で話そうと思ってる。最近キラリと光る人材が居なくて、嘆いてたんだよ、私も」


 校長は話を終えると、机に置いてあった渋茶を飲んだのだった。


 「いい案だと思いますよ……凄く。いいと思います」




**


 「確か巴(ともえ)さんの家、こっちだったよね」


 昔の勘を頼りに話ながら歩く美鈴とリツカ。市街地を抜け、商店街の並木道を抜けて、ちょっとした郊外の灰色の建物の前に来た。家の「龍崎」と言う表札を見ると、二人顔を見合わせて確信したようだ。


 「ん?うちになんか用か?」


 ちょうど京介が帰宅したらしい。美鈴は車庫に置いてある赤と黒の二色の1000ccのバイクに見とれているのか、夢中になっているのか、気が付かない。リツカは、美鈴をほっておいて、とりあえず律儀に挨拶をした。


 「あ、初めましてアタイたち、巴さんの旧知の仲でして。弟さんッスか?」


 「あー、アネキの仲間かぁ。(認めたくないんだけど、)一応血が繋がってるんだよね」


 京介はちょっと長くなったぼさぼさの頭を掻きながら答えた。


 「長ランに木刀?アネキのゾクの知り合い?」


 「そんな感じッス」


 「なんかそっちの人は和服着てるけど、ずいぶん奇抜な格好してるんだね。ふーん」


 リツカが誰と話してるのか気になったのか、美鈴は後ろを振り向いた。京介を見た瞬間、身体の中に電撃が走るような衝撃が走ったらしい




 「はぅっ!だれだれ?!このカッコいい人!?」


 「大丈夫っすか?姐さん?」


 口元を押さえて固まる美鈴。リツカは京介を硬直している美鈴に紹介した。


 「姐さん、この人、巴さんの弟さんらしいよ。どうしたの?」


 「巴さんの弟……」


少し唖然としている。相当意外な事だったらしい。


 「まぁ、上がってよ。散らかってるけど。こんな外にいるのもあれだし」


 「あざーっす!」


 リツカは右手を挙げて京介の後についていった。


 「あ、待って!」




 ―――― 一階客間。


 「はい。粗末なものですが」


慣れた手つきでほうじ茶と水羊羹を二人に差し出す京介。リツカは甘いものが来たのか、ちょっと喜びつつ、話の口火を切った。


 「そういや、アタイたちの自己紹介まだだったね。この方が姐さんってアタイが慕ってる人だよ。」


 「は、初めまして。く、暮崎美鈴と申します。趣味は茶道と生け花で、剣道も嗜んでおります。18歳です。」


ちょっと緊張して固くなっている美鈴。しどろもどろに言葉が出てくる。


 「んでもって、アタイは橘 リツカ。18歳だよ。姐さんは黒蝶(こくちょう)ってレディースの頭やってて、一緒に張ってるんだ。巴さんは昔、赤蜥蜴(アカトカゲ)ってレディースやってたの。巴さんはアタイのバイク師匠でもあるんだ。あ、因みにアタイは黒蝶の幹部なの。赤蜥蜴は5年前に解散しちゃったんだけどね」


 時々威張りながら鼻息を唸らせつつ、自己紹介を進めるリツカ。


 「へー」


 京介はちょっと興味がなかったのか、半分眠そうに聞いていた。


 「あ、で、俺は龍崎京介。17歳だ。結構喧嘩は強い方なんだけど、自分からは手を出したことがない。アンタらが慕ってるあの凶暴なアネキと血が繋がってて、好きなものはネ……」


 「だーれが凶暴だってぇ?」


 「巴さん!!会いたかったっす!」


 「イダダダダ!!」


 京介は後ろから気配無く現れた巴に後ろから頭を鷲掴みにされ、持ち上げられていた。


 「出た!伝説の必殺技、龍崎零式『ドラゴンクロー』!!」


 初めて見る巴の必殺技に興奮するリツカ。美鈴はちょっと哀れみの目で見ていた。


 「この口が偉大なるお姉様を侮辱したのかああああ!!」


 そして、立て続けのキャメルクラッチ。通称、「龍崎弐式『虎の羽交い絞め』」と言うらしい。


 「くうぅ、痺れるなぁあああ!この技の数々で何人の男をあの世送りにしたことか」


 そして、リツカは三カウントを始め、京介は泡を吹いて倒れた。

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