第9夜 前方の悪夢たち

『「莫迦にも、色々な人種がいるわ」』とゼロのサト江が呟いた。

 その言葉に反応をしたのは、

「馬鹿は馬鹿なの! それ以上も、それ以下も在りはしないわっ!」

 他ならない、島民のリノである。


『「あら嫌だ。お2人共、お気をつけて下さい」』


 進む先の違和感にゼロのサト江が声をかけた。

 声にニアンスも、少し強張っているような彼女に、

「気をつけろってつったってよぉー~~一体、な――……」

 ボンドが声を出したが、語尾は何かを目に映して掠れてしまう。

 明るく照らされた通路に、三人の行く先に動くような、何かが在った。

 

 人形のような、細さ長い――動くもの。


「っな、なんなんだよ! ありゃあ‼」


 前方から来る化け物たちは、異様に歩くのが遅いのだが。数が多い。

 しかも、路すらも塞ぎ通れなくする。

 ゼロのサト江は行けるが。ボンドとリノが行けない訳だ。

 直接対決のような構図なのだが。なのだが。


 武器は――銀のシャベルだけなのである。


「本っっっっ当に! あんたって、役立たずねぇ‼」


「だー~~からっ! リノがいる世界じゃあ使えねぇの‼ っしっつけぇなぁー~~‼」


 言い合いを始めるリノとボンドに、ゼロのサト江も眉間にしわを寄せた。


『「いる世界じゃ、使えないとは。一体、どういう意味ですか?」』


 興味本位なのか、ただ、言葉で確かめたかっただけなのか。

 ゼロのサト江の質問に、

「《円人類ウロボロタルト》だよ!」

 苛立った口調でボンドも言い返した。

 彼の言葉にゼロのサト江も目を大きくさせる。


『「あの人と、一緒なんですね」』


【あの人】という意味深な言葉を聞き返そうとしたのだが。

 それは叶わなかった。


 じり、じり――……


「来たっ!」


 ひゅん! と、ガッコン‼


 リノが銀のシャベルで攻撃を始めた。

 距離的にも届くと踏んだからだが、

「こっから、どうしょう!?」

 しかし、それは本能であって考えがあってしている訳ではない。


 彼らの顔は真っ青を超えた土色で、皮膚も爛れていて。

 開きっぱなしの口腔内からは黒い血が混じった唾液が垂れていた。

 そして、各々が何かを呟いているようだった。


『「耳を貸さないで。心を持っていかれしまうから」』


 そう言うゼロのサト江に、

「聞か猿ね」

 ボンドが笑い、リノも苦笑を浮かべた。

「んじゃあ~~見猿をやりますか? 灯りを落してくんない?」

 またも、ボンドが意味不明の言葉を吐いた。

 しかし、それにゼロのサト江も頷いた。


『「面白そうですね」』


 一気に当たりの灯りが消えた。

 突然の暗闇に、

「っぼ、ボンド!?」

 リノが驚いたのだが。


 もっふ。

 もふもふもふ、と。


 柔らかい手触りにリノは安心をした。

「また。犬になったの?? ……アレルギーなのにィい??」

 忌々しいという口調のリノを、

『「半分だ! 半分っ‼」』

 ボンドも胸元に引き寄せた。


『「息を、少しの間止めてろよ!」』

 

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