第8夜 鬼灯トントの葛藤

 天井から照らされる赤い光りから映し出されているのが。

 《プロジェクトS計画》のバーチャル初号のゼロのサト江であった。

 

「ふざけんじゃないわよっ!」


 今にも暴れそうなリノをボンドも羽交い締めにして、押さえ込んだ。

 

「離しなさいよ! ボンドっっっっ‼」


 暴れるリノを他所にボンドも聞く。

「で。そんなお前さんは、俺たちに何の用で扉を開けたんだ?」

 ボンドの言葉にサト江も肩を揺らして笑う。


『「来たのは、そちらさんなんですけどぉう?」』


 意地悪く言うサト江にボンドも強い口調で言う。

「確かにそうかもしれねぇが。開けたのは――お前だろう。サト江」

 偶然にリノの指紋が二ノ宮夫妻と型が一致したのかもしれないが、そんな確率はどんなものなのだろうか。血の接種による遺伝子の一致も然り。

 だから、もう1つの予想は。


 中から、誰かが――開けたという結論である。


『「鬼灯トントの研究を止めて欲しいんだ」』


 笑顔のない真顔で言うゼロのサト江。

 無表情で、機械的な彼女の表情を始めた見たリノの背中に汗が滲んだ。


「止めるたって、どうやってだよ?」と眉をひそめるボンドにゼロのサト江が手招きをした。


『「こっちに来て」』


 それは罠なのか、それとも何なのかとボンドは思ったが。

 自身の勘は大丈夫、だと色を出す。

「行くぞ。リノ」

「ぇ、ええ?? あー~~……分かったわよ」

 リノも、もうどうしていいかもわからなかったが。頷く他なく。


 ◆


 鬼灯トントの研究の原点は。

 どの先駆者とも同じで――誉められたい、認められたい。といったものだった。

 

 知りたい――


 誉められたい――


 その出発点も。

 やはり――どの時代も同じだった。


 ◆


「それで? そのモノホンのサト江さんとトントの野郎は、今も一緒なのかよ? つぅか、トントはいんのかよ????」


 ゼロのサト江と管理室の奥へと2人も進んで行く。

 そこで不思議なのは、赤い光りだ。


「お前って、……まるでさぁー」


 ボンドの言いかけた言葉に、

『「君は島民じゃないよね? 名前、教えてもらってもいいかな?」』

 ゼロのサト江が振り返り聞いた。


「ああ。俺ぁ、剣ボンドだよ」 


『「ありがとう。記録しておくよ」』

「すんなよ」

『「じゃないと施設の安全が害されたって警報やらと、ヤバいことになるからさ」』

「そぉっすっかぁ」とボンドは頭を掻いた。


 ◆


 最初にトントが創ったのは【生物】だった。

 それは同じ遺伝子学を専攻し、研究をしていた母親の影響が大きかった。

 そして、母親の研究所や、同僚の研究者に技術などを教えてもらい、頭の中は知識で溢れ返っていた。そして、溢れる創作意欲。


 8歳になったばかrのトントは【蜘蛛】を創った。


 それには母親も酷く動揺をし――激しく、トントを罵った。


『命を弄ぶことは赦さないっ!』


 母親は激情のままトントの研究のノートや、その他の記録を全て炎で灰に変えた。彼の初歩となる偉大な研究を抹消をしたのである。

 徐々に母親の心は病み精神病棟に、トントも同様に施設に入ることとなった。


 灰になってしまった研究は――死んでなんかいなかった。


 蜘蛛が子蜘蛛を産み。トントの施設に住み着いたからだ。

 

 そして、14歳になった年に母親が死んだ。

 すると母親が管轄し、所属をしていた研究施設から声がかかった。

 彼女の巨万の富と、自由に出来る研究所が、思いもしない形でトントは手に入れた。


 もうこの世に、トントを閉じ込めて抑制する親はいない。


 研究に没頭出来るという至福を手に入れた。

 そして、その研究所は日本の孤高の【光圀島】に新しくも創られたのだ。

 トントは二ノ宮夫妻と共に、光圀島に上陸をした。


 ◆


 『「彼は《研究》を愛してたの」』


  ゼロのサト江の言葉にボンドも言い返した。

「趣味にしときゃあいいのに。……こうなる、前兆みってぇな症状モンはあったのかい? トントの野郎にゃあ」

 トントの研究愛を吐き捨てるサト江に違和感しかなく。

 果たして、それは愛なのかとすら思った。


『「っふ! 前兆だって? 君は何を言ってんのかな?」』


「……お前が何を言いたいのかすら分からねぇんだわ、俺ぁ~~頭がよくないからなっ! 親父や、お袋からもよく怒鳴られるくれぇだぞ!?」


 自信満々と、胸を拳で叩く勇ましいボンドにゼロのサト江も、目を細めて口先を尖らさせた。その2人の間に、リノは口を挟むことすら出来なかった。

 頭も、言葉も、何もかもが浮かばない状態で。頭痛すら起こっている始末で。

 今の、この状況すらも夢であるかのようにすら思い――願ったのだ。


「つまりわぁー~~……その、なんだ。死んだお袋さんに、誉めてもらいたかったってことか? それとも、……あれか? 認められたかったってことか??」


 面白半分、冗談交じりにボンドがゼロのサト江に言う。

 否定すると踏んだというのに、

『「ええ。彼は認められたかったんですよ、最高傑作の蜘蛛が母親に。なのに、幽閉されて研究資料すらも灰にされて。なかったことにされた痛み、……母親への愛情と、劣等感が彼の心に巣をくって。結果として母親のように心が蝕われてしまった訳です。ただ、彼は――脚光を浴びたいという気持ちもなかったんです」』

 肯定をして、その先のボンドの心境を告げていく。


「……すごいね、って言葉。その一言が欲しかったんだね、トント博士は」


 ぼそ、っとリノが言葉を呟いた。

 それにボンドも歯を噛み締めた。


「いい歳した、大の男がっ‼ 馬鹿なんじゃねぇのっ!」


 


 



 

 

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