【第四部】第四章「北島 亜里沙(きたじま ありさ)」
そして、一夜明けて、俺が教会の扉を押して出ると、そこには、「あけちゃん」が立っていてびっくりした。
「竜之介さん……お久しぶりです」
「あ、あけちゃん?!」
「ご無事でなによりです」
「いろいろと……聞きたいこと……があるのだけど」
お腹が鳴った。空腹で疲れも溜まっていて。すっかりとそんなことなど忘れていたのだ。
「ちょっと、どこかに入りましょうか」
あけちゃんから話を聞くと、いろんなことが分かった。まず、昨日の夜に「黒石が自殺した」と言うこと。そして、彼女は実は、黒石のスパイだと言うことが分かった。手紙を送ったのは彼女だったらしい。あの家に誘い出した日。俺に睡眠薬を飲ませて、縄で締めようとしたが、出来なかったようだ。黒石は、俺の顔などすっかり覚えていなくて、インターンシップ研修に行ったときにも、顔も分からなかったようだ。俺のことは名前だけ知っていたらしい。
そして彼女の本名は……。
「私は北島 亜里沙(きたじま ありさ)って言うんです。今まで騙しててごめんなさい。あと、もう殺し屋は雇い主がいなくなったので、襲ってこないと思います」
「ホッとしたよ……俺、この金を持って、……け、警察署に自首するわ。今までありがとう。楽しかった」
「私……竜之介さんが、出て来るまで待ってますから!!何年かかっても、何十年かかっても!!」
俺は、手を挙げて彼女に背中で返事をした。
かの有名小説「罪と罰」。主人公のロージャは、愛するソーニャに罪を告白し、彼女は、釈放されるまで、彼のことを待っていたそうだ。亜里沙は俺のことを好きだったのか?それとも寂しかったのか?それは分からない。また、家族にも何も言わずに。俺はそのまま「詐欺で得た、不当なお金を持って刑務所に拘留された」
「世の中、金が全て」か。そんなことも言っていたっけ。俺は金なんかよりも、結局愛情が欲しかったのかも知れないな。ああ、なんだか結局……全てを失ってしまったんだ。これで良かったんだろうか。俺にも分からないや。
――終わり。
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