【第二部】第三章「蒼白の月夜 Side-B-(二)」
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俺は「カモの父親」と契約を取り交わし、その妻と契約を交わしてから、俺の猛攻は怒涛に進んでいった。面白いくらいに進んだのだ。俺は携帯電話を片手に話していた。
「あの、ほんっとうにすみません!!私も手を尽くしたのですが、土地が高騰してしまいまして!……はい、私も悪かったと思っています!ですから、にひゃく……ああ、秋月さんが大変な事情も分かってるんです。時期は遅くなってもいいので振り込みをお願いします。……え?家族が急いで振り込んで欲しいって?……あー、ありがとうございます!助かります!では、確認出来ましたら、折り返し郵送で送ります」
電話を切って、俺はミネラルウォーターを口に含んだ。喋りすぎると喉が渇くからな。すーりゃんとただやんは顔を見合わせて小声で話していた。ちょっと話が出来過ぎて疑われているな。迫真の演技力だったと思ったが身内は騙せないぜ。
「なぁ、お前、経理扱ってるよなぁ。土地が高騰したって話、聞いたか?」
「いや、まったく?でも、アイツがそう言ったんなら、仕方ないな」
俺はうまく帳尻を合わせることにした。良かった良かった。そして数か月後。カモの父親が委託した施工業者によって、念願の家が建ったのだった。
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俺は「二人の駒」を電話で呼び出した。そして「完成した家を見せたいので、二人に来て欲しい」と電話をしたのだ。俺は時計を見ながら、待ち合わせ時間に「敢えて」遅れていくことにした。すーりゃんが人の良さで、夫人を食いつないでいるようだ。カモの夫妻は「駒のお蔭」で信用を保っていた。有能な駒だと思ったぜ。ホントにな。
「あなた、ちょっと前にも、二人で行って家を見てたじゃないの。まだ建築途中ではあったけど、足場も組んでくれて素敵なお家になりそうだったわよね。今日は待たされてるし、もう十分して来なかったら、用事があるって言って帰りましょうよ」
そわそわし始める「カモの妻」。俺はオフィスのドアの隙間から様子を見ていた。すーりゃんが必死になってその場を引き留めていた。時計を見て、二時に差し掛かったころ、俺は緊張感すれすれの現場に「めちゃくちゃ申し訳なさそうな顔」でひたすらに入って行った。もう「こいつは地面に、額を刷りつけるんじゃないか」ってくらいの土下座をするのがポイントだ。謝ることはタダだからな。
「いやあ、本当にいつもいつもすみません!!御贔屓(ごひいき)にして頂いているのに!なんと申し上げたら良いのか。これ、つまらないものですが」
俺は「カモの妻」に「美味しいシュークリーム」の入った紙袋を手渡した。女は甘いものが好きだからな。
「あの有名店のシュークリーム、わざわざ並んでまで買ってたんですか?それは本当に、こちらこそ感謝したいくらいです!ありがとうございます!!」
「下げて一気に上げる手法」を俺は実践した。これは俺がやっている常套手段だが、狙ってやると危険を伴う技だ。俺くらいの天才なら、まぁなんとでもできるのだがな。
そして、俺は時計を見ながら言った。
「今から、お時間……大丈夫ですか?」
「俺ら、ちょっと帰ろうかと思ってて……」
「あ、いえ、全っ然大丈夫です!!一時間くらいならお構いなく!!」
スイーツで釣って、俺は「カモの妻」を罠に嵌めた。すーりゃんを連れ、四人で建設現場に行くことにした。
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俺は二人の夫婦を完成した家に案内した。立派な建物を見れば誰も黙るだろ。今回の物件の出来はいいからな。ただそれが自分のものになるかは分からないがな。
「柚木、あそこに見える山はな……」
俺はこの物件の所有名義を書き換えるべく、携帯電話で電話をしていた。すーりゃんにも、カモの夫婦にも聞かれないようにしていた。稼ぎは周到に、念入りにな。少し表情が緩んでしまうぜ。
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俺の狙い通り、カモの夫婦はすっかりと満足したようだった。俺の戦略が全て上手く行った証拠だな。そして、俺は会社にカモの夫婦を連れていき、応接間に案内し、今回の施工金額を細かく説明した。ただやんには、偽物の書類データを書かせることにした。
「本来、一千万円の物件なんですが、あの家を今回は八百万円でご提供しようと思っているんです。ちょっとうちの仲介手数料で、百万円ほど頂きますが……」
俺は言った。「少し額を抑えめに、出せそうな額まで」引いてみるのだ。大きな買い物をして、この夫婦は感覚が麻痺してるからな。カモの夫妻は、契約書類にサインをすると、出て行ってしまった。俺は勝利の笑みに笑いが止まらなかった――。
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