【第二部】第四章「放火事件」



 俺が、それから詐欺を繰り返して、かき集めた資本金は優に一億円を超していた。更に金を稼ぐために、俺はペットビジネスを立ち上げることにした。幸い「ドーベルマンの詐欺」には足が付いていない。感謝なことだぜ。


 世情調査の結果、富豪層のマダムは寂しさが蔓延(まんえん)しているらしく、可愛らしいチワワなどの愛玩動物を飼って、癒しを求めていることが分かった。


 元値は安く仕入れて、大量繁殖させた動物を俺は売りさばき、ネズミの繁殖のように、俺はかなりの額を儲けていった。俺はもともと動物嫌いだったが、「金を稼ぐ駒」にしか考えていなかった。少々痛いが、「大学時代の有能な駒」には手切れ金を手渡して、俺は独立で前進していった。




**


 「はぁ、なんだよ、夜の二時か……もう少し寝かせてくれよ」


 夏でもないのに、大量の汗を掻いていた。最近睡眠が浅いことが多い。沢山の連中が俺を呪っているのだろうか。とても眠れない日が続いていた。俺は高級の羽毛布団を払いのけ、一度熱いシャワーを浴びに立ち上がった。高層マンションの窓からは不夜城の夜景が広がる。ここの家賃も決して安い値段じゃない。自慢じゃないけどなっ。


 「……あきら、大丈夫?」


 ベッドで隣で寝ていた女が、後ろから俺のことをを心配そうに見ていた。こいつも俺の金が目当てなのか。それとも、俺の雰囲気が好きなのか知らない。人間に恋愛感情があるとか、俺はどうかしてると思ってるからな。この女も俺にとっては、「遊び相手の一つ」にしか過ぎないからな。俺はにっこりと笑って言った。


 「ああ、心配するな。寝てろよ」




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 数日して俺は、また贔屓(ひいき)にしている病院に行き、かかりつけの医者から「ゼパソン」や「レスタス」という名称の、「強い作用を持つ抗不安剤」を処方してもらった。最初に比べて薬の種類が、強い傾向になっている気がする。そして、薬を飲まないと眠れないことが多くなった。「誰かに襲われる」と思う感覚や、幻聴も聞こえたが、しかし金を稼ぐことがやめられなかった。


 会社が立ち上がって何年か経ち、立ち上げた「ペットビジネス」も経営軌道に乗り、各紙誌面に取り上げられるようになった。笑いが止まらない。さらに稼ぐために、俺は密輸を始めることにした。マニアックな連中に受けるように、高価でレートの高い動物を調べて、徹底的に密輸していった。もはや笑いが止まらないな。


 そんな中、薄汚れた身なりのみすぼらしい兄弟が、俺のもとに押し掛けてきた。




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 奴らの名前は、平山 勝次(ひらやま かつじ)と哲次(てつじ)と言った。なんか知らんけど、俺のところに雇ってほしいと泣きついてきたのだ。俺と同い年くらいで、プータローらしい。


正直、面識も分からないような奴らを雇う気もなかったが、俺はこいつらが「不幸な生い立ちであること」と「実は大の犬嫌い」ってことを気に入って雇うことにした。部署は「会社のゴミ箱」と名づけている「繁殖・育成課」に放り込んで犬の世話をさせることにした。


 「せいぜい頑張りな。這い上がって来るのが楽しみだぜ。くひひっ」




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 平山兄弟は、最初は忠実に世話をしていたようだ。しかし掃除を忘れたり、餌やりを忘れたりして、動物が病気になったり、死ぬことも多くなった。それどころか、怠惰(たいだ)で不衛生な職場にうっぷんが溜まり、ストレスで商品の動物を殺してしまうことも多くなった。


 俺はめんどくさかったが、解雇はせずに薄給で飼い殺しにすることにしたのだ。ったく、まだ犬の方が使えるだろ。


 そんな中、ある一報の連絡が入った。


 「黒石社長、例の平山兄弟が、動物保護団体に電話したそうです。うちの会社を訴えるそうですよ」


 「なんだと?今すぐ行く!あのプレハブ小屋が、サツか団体にバレたらヤバいことになる!」


 俺は冷や汗を掻きながら、「森城町にある飼育小屋」に足を運んだ。




**


 俺は建物の一週を見渡し、少し考えた。「この建物」が警察にバレるのと、俺の資産の損失を考えると、焼いちまった方が早いかも知れないな。少々、中の犬や猫がうるさかったが、周辺に灯油を蒔くことにした。


 「うーん、警察に見つかったかもしれないなぁ。ひひっ、この建物も用済みだな」


 そして、ライターで火を点けた。一瞬高校生のガキが、うろちょろしてるのが見えたが、気のせいだろ。




 「あはははは、燃えろ燃えろ!!燃えて無くなれ!!灰になれ!!」


 俺は気持ちが良くなって、燃え上がり崩れていく建物を眺めていた。


 そして、平山兄弟が俺の前に歩いてきた。こいつらはいちいち説明しなきゃ分からないのかよ。


 「黒石社長。これは一体どういうことですか?」


 「あ、平山兄弟?君らはクビだから。あはは、おっかしいねぇ」


 そう言って、平山兄弟は膝から崩れ落ちた。そして、俺は面倒ごとになる前に車で走り去った。あーあ、スーツが煙まみれだよ。また買い直さないとな。




**


 数日後、話によると平山兄弟が放火したことになって、俺の放火の犯行は免れたようだ。まだまだ金は稼げそうだ。笑いが止まらないな。

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