【第一部】第三章「合同コンパ」



 コンパも順調に進み、口下手な俺も、なんとか会話も、どもりながらも話していた。男性陣はやはり、二人ともカッコいいので、人気は絶大だ。俺は席の隅っこでこそっと頼んだカクテルをちびちび飲みながら、爪楊枝を見つめていた。


 「へー、明憲くんって、おばあちゃん子なんだね。だからリハビリテーション病院に入ったんだー」


 「おう、結構実家に帰っててるんだよね。健とかうちのばーちゃん好きでさ。お小遣い貰ってたよ」


 「いいなぁ、そういう思い出って。私、めっきり都会育ちだから、羨ましいよ」


 真雪の友人。日立 なつみ(ひたち なつみ)。経済大学の友人で真雪と同じゼミ生だ。真雪と仲が良く、プライベートでも二人で旅行に行っているらしい。明憲といい雰囲気だった。


 俺は、スマートフォンを取り出すと、株式市場を見ていた。実は、証券取引を密かにやっているのだ。貯蓄は言えないけど持っている方だ。これはだれにも言っていない。




 スマートフォンをいじっていると、真雪に取り上げられた。


 「もー!のそ!なにやってんのよ!見てないとすぐこれなんだから!誰かに話しかけた?」


 「いや、特に」


 「しばらく没収します。ラストオーダーまで時間あるから、ちょっと話してきてよ!」


 めっちゃ気が重くなってしまった。お前は俺の嫁かよ!と心で突っ込みそうになったが。




 さて、誰と話そうか。と思っていたのだが、みんな話し相手がいるようで、わいわいがやがやしていた。その中でぽつーんと一人。メニューを見ながら佇んでいる女性がいた。あけちゃんだ。同じ空気を感じた俺は、一番対角線の席に座っていたあけちゃんの隣に座ると、話しかけた。


 「……」


 「……」


 会話がない。いや、分からないのだ。女の子ってどんな話題が好きなんだ?俺に知識をくれ!!そもそも、俺に会いたかったってどういうこと?訳がわからない!!俺は意を決して話しかけた。


 「あのさぁ」


 「?」


 「コンセントの穴って……左右違うらしいよ」


 「……で?」


 あけちゃんの冷ややかな目線が俺に刺さる。思い切って「どうでもいい雑学」をチョイスしてみたのだけれど。反応がとっても冷たかった。


 「……」


 気まずい、気まずすぎる。そもそも、俺に話せって言うほうが無理なんだよ!!


 「あのさぁ」


 「?」


 「味噌汁を……四リットル飲むと、死ぬんだって」


 「で?」


 引き続き、あけちゃんの視線がとても痛かった。俺を殺せ!恥ずかしくて死んでしまいそうだ。そもそも、美紅ちゃんの話では「俺に会いたかった」って言ってなかったっけ?


 俺は思い切って話をしようとした。


 「あ、あのさぁ……」


 「なに?」




 「皆様!ちゅうもーく!今から『二番目当てゲーム』をやりたいと思いまーす」


会話の間を割るように、健が大きな声で言った。なんと間が悪い奴だ。しかも、よく分かんないのぶっ込んできたな。


 「いえーい」


 一斉に拍手が起こった。


 「それではっ!美紅ちゃん解説、よろしくぅ!」


 健は美紅ちゃんに解説を振った。美紅ちゃんも場慣れしているらしく、ノリノリでゲーム説明を開始した。


 「はぁい!解説のみくちゃんでーす!!それではっ!ルール説明始めちゃうよー!みんなに紙とペンを渡しまーす」


 健が紙と人数分のペンをそれぞれに渡した。そして、美紅ちゃんは続けた。


 「その紙にですねー、例えば『この中で二番目に優しい人!』とか『二番目にカッコいい人!』とかそういうの書いてください。で、最後に回収して、その当たった人は罰ゲームを受けてもらいまーす!It’s OK?」


 「It’s OK!!」×5




 さて、いきなり始まったはいいものの、俺、ホントこういうの苦手なんだよなぁ。正直、メンバーのこと誰も知らないし……そのとき、健が袋を取り出して言った。全く持って用意周到だと思った。


 「では、お題をこの袋から引いてもらいます!!おい、のそ、ぼさっとしてないで、お前引け!」


 「え?俺?!」


 いきなり指名されて戸惑った。そして、シャッフルしてそのまま引くと、お題が書いた紙を読むように言われた。この時点で結構恥ずかしい。


 「なに?え?読むの?……二番目に背の高い人?」


 「だそうです!!制限時間は五分設けます!ではstart!!」


 俺も慌ててあけちゃんの隣に座って、紙に書き込んだ。……って言っても、正直座ってるから分からんのよね。女子は省くとして、一番高いと思うのが、スポーツやってる健だろ?で、明憲がスポーツやってるから、いや、待てよ?美紅ちゃんも結構身長高かったし、女子も侮れないしなぁ。うーん。


悩んでいると、声が掛かった。


 「みんなー、書けた?」


 「書けましたー」×6


 俺を除くみんなが書けてるっておいおい、まじかっ!


 「のそ、まだ書けてないの?」


 「う、うるさいなぁ」


 真雪がこっちを向いて聞いてきたので、俺は急いで記入をした。しかし、現実はそう甘くはない。俺が罰ゲームの第一人者になった。


 「のそが書けてないそうでーす!」


 「じゃあ、正解は別にして、面白いから、のそにトランプ引いてもらうか!」


 「いいね!」


 「超絶いじられ役」とは、このことだろうか。俺はがくっと頭を下げていた。因(ちな)みに正解は、あけちゃんだったらしい。近くにいるから全然分からなかった。


 「では、のそにトランプを引いてもらいましょう。よーく切って。なになに?『鉄板のキメ台詞』だって。のそ、あるのか?」


 こいつ、健の野郎……ニヤニヤしてやがる。俺は「キメ台詞」について思い巡らした。そして、ポーズを決めながら、恥ずかしながらに言った。


 「ら、らいおにっく、びーすと!!」


 「……」


 周囲の空気が固まった。……滑ったぁ。二十年近く前のアニメだから知ってるやつ、いねーよな!!あー、超恥ずかしい。そして、美紅ちゃんが、固まっている俺をスルーして、そのまま進行していた。まぁ、いいんだけど。


 「……はい、ってことで、続いてお題を引こうと思います。なつみちゃん、お願いしまーす」


 「へ?!わたし?!」


 なつみちゃんがお題を引いた。そして美紅ちゃんがお題を読んだ。俺と扱いが全然違うし。


 「『二番目に頭がいい人』だってさ!誰だろうね!」




 俺が頭を抱えながら座っていると、あけちゃんが服を引っ張って小声で言った。


 「さっきの……獣王レンジャーだよね?」


 分かる人がいたのかぁ。俺は驚いていた。




**


 そんなこんなで、楽しい合コンも終わり、みんなでメッセンジャーを交換し合って解散したのだった。俺はなんだかんだ言いつつも、いじられキャラに立ったお蔭で、なんとか空気にならずに済むことができていた。


 帰って、酔いつぶれてベッドに横になった。明日は、多分二日酔いだろうか。自分が寡黙な分、お酒のペースが速かったからなぁ……。

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