第3話 森の妖精
塔を出ると、当然森が広がっていて、夏らしい蝉の鳴き声が響き渡る。他にも虫たちが永遠の夏休みを謳歌していて、五月蝿《うるさ》かった。が、それ以上に僕の鼓動が煩すぎた。
妖精を求めて走る僕は、ただの凡人。否、美少女のために汗をかいている男なんてそれ以下である。
早くしないといなくなってしまうかもしれないという焦りで走り出しては来たものの、この広大な森の一体どこにいるというのだろうか。位置情報を向こう側から教えてくれない限り、たどり着けない気がした。草木を掻き分け、枝が擦れ。血はギリギリでないものの白い線が複数刻まれた、黒く焼けた腕。それを存分に振り回して再び走る。しかし、とうとう暑さに負け、バッタの佇む野原に横になった。日向ぼっこは本当に暑いときには気持ちよくなどない。
(随分離れちゃったなー。どっから帰ろ。とりあえず道ができてるところに出よう)
汗にまみれた体を起こすと、少し目眩がした。何とか歩き出す。冷静にならないと熱中症の危険が。冷静に。冷静に。あ!
「あのクソジジイ。俺が映ってたって言ったな」
思い出すと、全力で走った。疲れなど吹っ飛んだ。けど、熱はより一層増す。走る。急げ。
いた。道に出ると、そこには妖精がいた。
紛れも無く彼女は妖精で、僕の夏休みのヒロインだった。
荒い息が、何故だか一瞬止まった。
無の上に建つ金字塔 変太郎 @uchu
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