第2話 謎の水晶

クソジジイとともに生活する夏休みは、今幕を開けた。

この家は靴を履いたままで生活する外国的な家である。これほどまでに一般からかけ離れた日本人はこのジジイくらいだ。


「お腹空いた」


僕も僕で、人の家ひとんち入ってすぐ食料を要求するのはなかなかに無礼だが、どっちもどっちなので疚しい気持ちはない。


「テキトーに木の実でも取ってこい」


この都会人とはかけ離れた言葉も慣れたものである。子供の好む食べ物は何処を探してもこのフロアにはない。しかし、一階に行けばあるのだ。それを決して彼は僕に教えない。

謎の金属を研いでいるクソジジイをよそに、僕は忍び足で一階に行く。

食料倉庫と化した一階には味気ないパンがあった。賞味期限の記載のない怪しい袋を、大量の段ボールのうちの一つから取り出す。賞味期限など気にしていてもしょうがないので、謎のパンは食べた。一つたいらげると、二つめを口に咥えて二階へと上がった。

すると、丁度運悪くこちら側を見ていたクソジジイに見つかってしまう。


「おい! それは俺のだぞ!」


急に立ち上がり、こちらを指差しながら声を荒げる大人気おとなげないジジイを嘲笑ってやる僕。そして、追いかけてきそうな勢いの彼から、本能的に逃げる。と、何かに体がぶつかる。ぶつかったのは棚。棚が揺れ、何かが落ちる。落ちているものを見て、僕はやってしまった、と焦る。しかしその焦りは杞憂に終わった。疲れ果てた床には、水晶玉が一つ。何かクッションになるものがあったわけでもないのに割れていない。疑問に思ってジジイに問う。


「あー、それな。そこの森に落ちてた幾つかのカケラを拾ってくっつけたらな、そうなったんだわ。たぶん、2分後くらいの未来が映る」


「はぁああ!?」


「さっきも、お前さんが映ってたからなー」


気になって床を転がっているまん丸のそれを手に取り、見てみる。すると、両端に木々が並んでいるのが見える。映るのはこの塔を囲む森だろうか。すると、人型の小さい何かが横切った。妖精のような容姿。じゃない。だ。紛れもなく妖精。美しい幼女の姿の妖精が、確かに映っている。


(今ここに映ってるってことは……)


僕は急いで大扉をこじ開け、螺旋階段を駆け下りた。疲労など吹き飛び、好奇心で満ちている今なら、何か凄いことができそうだ。




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