【第四部】第四章「アイスクリーム」



 その人がおねーちゃんだと分かってとってもとっても嬉しかった。「神様、本当にありがとう!」心からそう思ったのだった。


 「えっ、どうして……瑠璃がここにいるの?!」


 「コウサカくんって、おねーちゃんのクラスメイトだった人から聞いたんだよ!おねーちゃん……ずっと会いたかった。もう離れたくない」


 ボクはおねーちゃんを「もう離さない、離したくない」としがみつくように抱き付いたのだった。おねーちゃんも、嬉し泣きなのか、分からないけれど、ボクにはおねーちゃんが涙を流しているように見えた。「身長差が少しついてしまったなぁ。おねーちゃんはすっかり美人さんになってるや」とボクは思った。けれど、それに対して、ボクの姿はあまり変わっていなかった。


 「せっかくだし、アイスクリーム、食べよっか。外は寒いけど、いつものようにさ」


 おねーちゃんはこの場所をしっかりと覚えててくれた。ボクはとても嬉しくなって二度頷いたのだった。


 「うん!!うん!!」




**


 ボクは四年分の時間をおねーちゃんと二人で過ごしているような感覚だった。ショッピングモールの中にあるアイスクリーム屋のベンチに座り、「小さいころとおんなじように」ボクはレモンとバナナチョコレートのダブルを注文し、おねーちゃんはラムレーズンのシングルを頼んだ。そしておねーちゃんは財布から二人分の会計をお金を出し、気づかないあいだに済ませてくれていた。出来上がったアイスクリームをおねーちゃんはボクに渡してくれた。アイスクリームの大きさは昔から変わらなくって、ボクは少し成長したのか、小さい頃は口に入らなかった、子どものころとおんなじ大きさのアイスクリームの甘酸っぱい風味を味わっていた。ボクは話したいことがたくさんあった。おねーちゃんは変わらずに黙って頷いて聞いてくれた。とても嬉しそうだった。


 「高校でね、ボクはねっ、夏稀とたくさん遊んで、いろんなことをしたんだよ!この前のカフェもとっても良くって、おかーさんの紅茶とまた違った良さがあったなぁ」


 「瑠璃、お母さんは元気?」


 「うん。なんとかやってるよ」


 ボクはおねーちゃんにおかーさんの話をしたので、おねーちゃんはおかーさんのことが少し気にかかったみたいだった。それから、ずっと気になっていたことがあった。それは、四年間おねーちゃんが「どうやって生活してきたのか」ってことだ。ボクはそのことを思い切って聞くことにした。


 「そう言えばおねーちゃんは、四年も家出してしまったけど、帰ってくるつもりはないの?ボク、笑ってるように見えるけど、本当は怒ってるんだ。どうやって四年間を過ごして来たの?」


 ボクはじっとおねーちゃんの目を見ていた。おねーちゃんは後ろめたさを感じたのか、ボクから目を逸(そ)らしてしまった。おねーちゃんはなにか隠し事をしているとボクは思った。


 「あ、アルバイトしてたんだよ!ごめんね。実はね私は、霧前市まで来たらそこで電車代切れちゃったんだ。だから、必死に行きずりの食堂やってるおばさんにお願いして、店に雇ってもらってるんだ。そしたら、今もすっごく気に入られちゃって、帰れなくなっちゃってね。で、『親元から離れて自立するのも悪くないかな』って思ってね。あははっ」


 おねーちゃんは乾いた笑いを浮かべていた。少し怪しいと思ったんだけど、これ以上聞いても教えてくれないと感じていた。少し譲歩して、ボクはおねーちゃんの同情を誘うことにした。


 「だとしてもさー、一報くらいちょうだいよ。おかーさん、とーっても心配してたんだよー。優しいおばさんのいたんだねー。どうして、交通費が入ったときに帰ってこれなかったのさ?」


 おねーちゃんの口調が少ししどろもどろになっていた。「本当になにか隠している」とボクは思っていた。


 「そ、そうは言ってもね、住み込みって大変なんだよ。きゅ、給料が入ったら、『はいサヨナラ』って戻るわけにもいかないでしょ?」


 ボクはなんとなくだけれど、アルバイトが大変なことや嬉しかったことを小耳に挟んでいたので、「おねーちゃんも、きっといろいろおねーちゃんなりの事情があったんだろうなぁ」と思った。そして渋々信じてみることにしたのだった。そしておねーちゃんが「どうしてボクが、おねーちゃんのことを、『おねーちゃんだ』と一瞬で分かったのか」が気になったんだと思う。それを聞かれたのだった。


 「私から、瑠璃にも質問するけどね、どうして瑠璃は『私のことを、おねーちゃんだ!』って分かったの?」


 「うん。それはね、これ覚えてる?」


 ボクは制服の上に羽織っていた、厚手のウインドブレイカーのチャックを下げ、首に下げている「木彫りのクマの皮紐の首飾り」を取り出し、おねーちゃんに見せた。


 「おねーちゃんの『皮紐の首飾りはリンゴ』でしょ?ボクは『クマ』なの、覚えてるでしょ?お互いの名前が刻んであるのも。おねーちゃんが北海道に修学旅行に行って買ってきてくれたんだよね。覚えてるよね?」


 おねーちゃんは、ボクから預かった首飾りをショッピングモールの天井照明に当てていた。「クマの首飾り」は、綺麗に樹脂塗装されて、光り輝いていた。木彫りの首飾りは凹凸まで細かく掘られ、とても美しかった。「裏には日付とローマ字で『RURI』と言う字が彫り込まれているのを、おねーちゃんは思い出してくれたんじゃないかな」って思った。


 おねーちゃんもその首飾りを欠かさず付けてくれていたのがボクは嬉しかった。


 「瑠璃もよくそんな古い物ずっと付けてたねー」


 「お姉ちゃんこそ」


 ボクはおねーちゃんと笑い合った。そして、おねーちゃんは腕時計をちらりと見た。もう時刻は九時を過ぎて少しずつ、店も閉店しはじめていた。


 「あ、もうこんな時間だ。私、行くね」




 おねーちゃんはベンチに置いてあったポーチと服を買ったらしき紙袋を持つと、ボクにお別れを告げた。ボクは「せっかく会えたのに」と思って、とっても寂しくなって、おねーちゃんを引き留めようと必死だった。


 「おねーちゃん、もう行っちゃうの?会ったばっかじゃん。もう少し話そうよ!……せっかく会えたんだよ。ボク、おねーちゃんにまた会いに行きたいし、おねーちゃんのとこに連れてってよ。帰りはひとりで帰れるからさ」


 おねーちゃんは、じりじりとボクから後ずさりをしていた。そして、「ごめんね、ごめんね」と小声で連呼していた。「明日の学校はどうなのか?帰らなくていいのか?」そんなことを聞きながら。そして、ボクが気を取られた瞬間におねーちゃんは走り出した。


 「ごめんね!!今、急いでるから!!また会おうね!!」


 「おねーちゃんっ!!待ってよ!!『また』っていつになるの?そんなの、分からないよ!!」


 ボクは必死におねーちゃんを追いかけた。しかし、おねーちゃんは足が速くって追いつけなかった。それでも、おねーちゃんが大好きだったから必死に追いかけた――。

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