【第四部】第三章「おねーちゃん!!」



 ボクはすっかり暗くなった街並みを見ながら電車の通勤快速に乗り、霧前市まで行き、バスを乗り継いで、言われたショッピングモールまで来た。ここまでかなりの時間が掛かってしまった。




**


 「着いた。ここだよね」


 ボクは気がつくと息は切れ切れ、咳が止まらず、目元を触ると乾燥したのか、涙が潮になって残っていた。ボクは、今にも倒れてしまいそうなくらいに疲れていた。膝に手を当てて、肩で小刻みに、呼吸を繰り返していた。でももう少しだ。「今日はいるかも知れない。神様はいるかも知れない」と思って、ボクは自分の身体を鞭打って駆り立てていた。「あともう少し、あともう少し!」と、ショッピングモールの五階に駆け込んで行った。


 ……そして、ボクは五階服売り場に着いたのだった。




**


 「この前、トーさんと選んでいて買い忘れた服、なかなか良かったなぁ。そろそろ冬になるし、アルバイトも始めたし買ってみようかなぁ」


 女性は両手に服を持ちながら、どちらが良いのかを鏡を見ながら検討していた。


 「あのー、店員さん、どちらがいいと思いますかぁ?」


 女性は比較的シャイなのかも知れない。聴きづらい小声で店員さんに話しかけていた。しかし店員さんは女性に気が付かずに、そのまま呼び込みに行ってしまった。


 「ダメかぁ。しょうがない」


 その女性はまた鏡の前で悩みだした。




**


 「おねーちゃんは真面目で大人しくてシャイで、黒髪で髪なんか染めたりしなくて。でもオシャレで女性らしくて。背も比較的大きめで。大きくなったら多分こんな感じなんだろうなーってのも予測してた。会ったらなんて言おうか。ワクワクするなぁ」


 ボクは、手に「財布にいつも忍ばせていた数年前の家族写真」を持ち、それを見ながら服売り場をうろうろ歩いていた。危なっかしく人にぶつかりそうな歩き方だった。周りの人は、ボクを避けながら服の吟味をしていた。




**


 「よし、これで行こう。トーさんも喜んでくれるかなぁ?」


 女性は片方の服を棚に戻し、振り向いて歩き出そうとした。そして向かい側から来た、身長の小さな女の子にぶつかった。ドン。擬音で言えば、こんな感じだろうか。小さな女の子と女性は、同時に尻餅を突き、床に両手を突いていた。そして、先に女の子が立ち上がり、女性のもとへ駆け寄って行った。礼儀正しく彼女は女性の身の安全の確認をし、謝罪をしに言ったようだった。


 「あのー、大丈夫ですか?」


 女の子は自分のお尻をさすりながら、痛みに苦笑いしながら女性に話し掛けた。


 「いえ、大丈夫です。お嬢ちゃんこそ大丈夫?」


 「あ、はい、なんともないです」


 女の子はその場で二、三回跳ねて見せた。そして、女の子は「なぜか」その女性に懐かしい感覚があった。「声質、髪質、背丈。そのすべてを自らが追い求め、自らが失っていた人物をそのまま大きくしたような、そんな不思議な感覚」面影と言うやつだ。……そして、女性の胸元に掛かっていた「木彫りのリンゴの皮紐の首飾り」を見て、女の子は一瞬で、その女性が誰かを理解してしまった。彼女の心の中でジグソーパズルの最後の一ピースがはまる音がした――。


 「おねーちゃん!!」


 「えっ……瑠璃?!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます