【第三部】第五章「BLACK Side-B-(五)」



 「ほら、ここ見てみ?よーく見ると小さい文字で、『この物件を (甲)は以下の所有者 (乙)に譲渡します』ってあるだろ?」


 「あ、ああ。あるな」


 「この下を追っていくと乙『黒石 彰(くろいし あきら)』ってあるんだよ。しかも、後日署名出来るような形態をとってるわけ。だから、物件自体はいくら、『あの人たちが』お金を払ったとしても、手に入ることはないんだ」


 「あとな、ここ。『但し、甲は、乙に対して、物件の損害や個人的信用を損なった場合に於いて、売却の権利を棄却します』ってあるんだけど、これはどうとも取れるわけ。つまり、『アイツの腹を立てた』って場合でも、『これは適用できます』って但し書きだよ」


 「嘘だろ!?」


 俺はショックだった。そして、いつも通りに、ただやんの前で黒石に電話をしてみた。すると電話番号はすっかりと使えなくなっていた。急いで通帳の残高を見てみた。すると、『お前の配当だよ』と言わんばかりに、分捕り金のうちの三分の一である、『七百万円』が振り込まれていた。俺はショックで膝をつくと、非通知の着信がスマホに入った。




 「はい、もしもし」


 「あ、『すーりゃん』、俺だよ俺、オレオレ」


 俺は、頭にきて思い切って怒鳴りつけた。


 「お前!!馬鹿野郎!!なんてことしてくれたんだよ!!ふっざけんな!!」


 「あひゃひゃ、すーりゃんなら感謝してくれると思ったんだけどなぁ。残念だよ。『報酬』は確認してくれた?たーんまり、今回も儲けさせてもらったから。すーりゃんのキャラが本当に役に立ちましたわ。ありがとちゃん」


 「俺にこれをどう使えって言うんだよ!!あと、ただやん、アイツも困ってるんだぞ!!」


 「あらそー、嫌ならノシつけて送ってくれても構わないんだけどね。まぁ、俺の住所なんて分からないでしょう。んじゃ、さようなら!」


 黒石は言うだけ言うと電話を切られてしまった。秋月さんたちはそれから、会社に来ることもなかった。そりゃそうだ。会社は簡易オフィスを間借りし、黒石が契約した「ペーパーカンパニー」が動いていただけだったのだから。俺も詐欺に加担してしまったことで、謝りに行くにも、秋月さんたちの前に姿を現すことが出来なかったのだ。相当憎んでいるに違いない。




**


 そして四年後、新聞の記事で「常盤さんが自殺を図った」ことを知った。俺は一人、自室で泣いていた。あれからただやんとは、「あの詐欺以降」、連絡を取ることも、そもそも取りたいとも思わなくなっていた。それだけに、心の傷は被害者にも、加害者にも、双方にとって大きなダメージとなっていたのだ。




 それから、「せめてなにか出来ないだろうか」と悩んでいた。俺はふらふらと、鏑木市の港を歩いていたときに、「常盤さんの見せてくれた娘さんの写真」で見覚えのあった少女を見つけ、契約書と書いていた入学書類が一致していった。そしてはっきりとこの家族のために贖罪(しょくざい)をしていこうと、心に決めていくのだった――。

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