【第二部】第二章「オオカミ少年」



 ――これはずっと昔の話です。あるところに貧しい家族がいました。一番上の男の子には、一人の弟と二人の妹がいました。貧しい家計でした。男の子は働くことのできない歳でした。育ち盛りでいつもお腹を空かせていました。しかし、いいものをいつも下の弟や妹に取られていたのでした。


男の子はいつも愛情に飢えていました。お母さんもお父さんも子どもを育てるために、必死にお金を稼いでいたのです。二人はお金が欲しくていつも仕事をしていました。子どもたちはお腹も心もペコペコでした。




 ある日のことです。男の子は下の弟や妹たちを連れて、近くのお店まで来ていました。お母さんに頼まれたご飯の材料を買うために来ていました。お金もわずかしか渡されていません。男の子はとても考えながら買い物をしていました。




 買いものが終わってお店を出ました。すると小さな妹が男の子の服を引っ張って、上目遣いに訴えました。


 「おにいちゃん」


 見ると、小さな手のひらに買いものをしていない、小さなあめ玉が乗っていたのでした。男の子はとても悩みました。「お店の人に謝ろうか、それともこのまま黙っていようか」そんなことを考えて、帰って、悩んで疲れて眠ってしまったのです。




 次の日も男の子は買いものに行きました。お母さんはいつも忙しい人でした。男の子はとても疲れていました。小さな妹はまた服を引っ張ります。見ると、今度は小さなチョコレートが乗っていたのでした。




 男の子はとてもお腹が空いていました。弟や妹もお腹が空いていました。ある日のことです。お父さんもお母さんも帰り遅くて、なかなか帰ってきません。弟も妹も男の子もお腹がペコペコでした。


 男の子はご飯の炊飯器を開きました。でもご飯は炊いてありません。仕方がないので弟と妹にお砂糖をなめさせていました。すると小さな妹が言いました。「お店からもらってくればいいんだよ」と。




 男の子はとても考えていました。そして小さな妹を怒りました。小さい妹はわけが分からなくて泣いてしまいました。男の子は、とても疲れて、小さい弟や妹を置いて家を出ました。そして少し歩きました。お店の前には美味しそうなパンの袋が置いてありました。男の子は「お腹が空いている弟たちのためだ」と言ってこっそりと盗んでしまったのです。




 もちろん、悪いことをしたら叱られるのが世の中です。男の子はすぐにお店の人に見つかってしまって怒られました。お父さんとお母さんもカンカンでした。お母さんは言いました。「なんで小さい弟たちを家に置いて悪いことをしたの!」と。男の子はとってもとっても不愉快でした。




 男の子には友だちがいました。その友だちはとてもお金もちでした。なんでも持っていました。「十二色のクレヨン」「ピカピカのミニカー」「カッコいい怪獣のおもちゃ」なんでも持っていました。




 ある日のことです。友だちが新しいピカピカのミニカーを自慢したかったので、学校に持ってきました。みんなに見せびらかして、とっても嬉しそうでした。男の子はとてもうらやましかったのです。




 友だちが着替えて水泳に行っているときです。男の子はこっそりと友だちのカバンを漁ってピカピカのミニカーを自分のポケットに入れてしまいました。だーれも見ていません。だーれにも気づかれていません。


 そして、男の子も水泳に行きました。それから帰ってきました。すると友だちが泣いていました。友達は大きな声で言いました。「だれかがボクのミニカーを盗んだ」と。




 今度は犯人は分かりません。だーれも見ていないから。だーれにも気づかれていないから。でもね、男の子の心はとってもチクチクと痛みました。


 先生は小さくて貧しいクラスのもう一人の女の子を疑っていました。お金持ちの友だちもその女の子を疑いました。そして女の子はいじめられて転校してしまいました。




 男の子の心はチクチク痛みました。でも男の子は結局、ピカピカのミニカーをお金もちの友だちに返せませんでした。どうしてでしょうか。それは小さな弟や妹が、そのミニカーをたいせつに、たーいせつにしていたからでした。




 男の子は悪いことをした自分が嫌いでした。とっても嫌いでした。大人になっても同じことをするんじゃないかって思っていました。本当に悪い大人になるんじゃないかっておびえていました。




 これはずっと昔の話です。あるところに貧しい家族がいました。子どもたちはお腹も心もペコペコでした――。

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