【ver.3】Parts:023「激動のロボットコンテスト!(後編)」



 「さて、外は雪で冬の寒さも増す中、会場は寒さを物ともしない熱狂的な空気に包まれています!!次なる闘いは、いよいよ大目玉『鷲宮工業大学』です!!……雲雀さん、鷲宮工業大学はご存知でしょうか?」


 「あなた、私のこと馬鹿にしているの?それくらい知って……」


 「鷲宮工業大学は、今年で三十五年を迎える歴史ある工業系大学です!森城町の町工場から『自分の息子を工業系の道に進ませたい』そう願ってやまない、頑固おやじがこの学校の経営を支えております!!しかし何と!!鏑木工業大学の男女比がロクヨンに対して、この学校はキュウイチ!絶句するほどに女子学生が少ないのです!!これは困ったぞ!!」


周囲からブーイングが上がる。不満そうに雲雀が呟いた。


 「そう言うんだったら、あなたもが娘さんを送ったらいいじゃないの。娘さんがいるんでしょう?」


 「ひぇっ?!あのむさ苦しい独特の雰囲気に、私の娘を投げ込むんですか?!滅相もない!!」


 「さて、頼りない司会進行役に代わりまして、私が今回仕切らせて頂きます。こう見えてもスピーチコンテストは上位なので、ご心配なく」


 やや雰囲気が弛緩した中で、大会が再開された。




 ドライアイスの煙に包まれて登場したのは、富士通 幹人助教授と学生陣だった。わざとらしく先頭に立ち、興造を見ると挑発するように言った。


 「鏑木工業大学の諸君!!積年の恨みを晴らす時が来た!!僕らをただの機械系オタクだと思ったら噛み付くぞ!!いでよ『あるマジ・Rock!』」


 幹人はしゃかりきに、下手くそなダンスと下手な口笛を吹きながら動き回る。脇にいた男子学生は、彼のことを無視して、リモコンを操作し、ロボットを会場に登場させた。




 「えー、そこにおられる幹人助教授は無視して下さって構いません。僕らのロボットは『パンク系』×『アルマジロ』と言うモチーフで作ってあります。先ほど『アスカ・テクニカル高専』の方が造ったロボットに近いのですが、前傾姿勢の二足歩行ロボットで、移動は『丸まって動く』ようになっています。背中には自動車のタイヤで使用されている『ブタジエンゴム』を利用して、四ヶ所の駆動車輪が原動力となっています。転んでも立ち上がれるのが、最大のメリットですね」


パンク系ファッションのアルマジロ。しかも丸まることが出来、転倒もしない。内部にはジャイロバランサーを内蔵し、安定した円転運動でどこにでも転がることが出来る。




 一通り学生が説明し終えた後に、幹人は学生からマイクを奪い取って、興造を見ながら言った。


 「こうちゃん!!見てるか?二十年前に『しろながすくん』を造った時、惜しくも機械の整備不良で負けてしまった。それから三十年。鎬(しのぎ)を削り合って、ようやく望むロボットが出来たんだ!!コテンパンに叩きのめしてやるから見とけよ!!」




 それを会場で見ていた興造は頭を抱えて言った。


 「みっちーよ、学生よりも目立ってどうするんだよ……だからアイツは助教授なんだよ……」




**


 スタートが切られ、今まで難関だったコースを物ともしない「あるマジ・Rock!」。発泡スチロールの円柱とゴムの相性は思ったよりも良かったらしく、風船を体当たりで当てて落とすことが出来ているようだ。坂道の傾斜がやや厄介だったのだが、それすらも物ともしない加速性能だった。




 「あらあら?今回の鷲宮の学生さんは思ったよりも、奮闘していますね!なんと、ここまでの所要時間はきっかり十五分。ストップタイムも全く使用していないので、かなりの好成績です。もしかすると、私の会社に来てくれる学生さんが現れるのかしら!!」


 興奮しながらアナウンスをする雲雀。しかし四本目の円柱に向かう際にバッテリー交換のハプニングが発生した。思ったよりも「三本目の傾斜」で、パワーを根こそぎ奪われたようだった。


苦戦しつつ、難関のポールに挑む。細かい遠隔操作と、難解な迷路のようなポールが「あるマジ・Rock!」の足を阻む……。




 やっと辿り着いた時には、二十五分経過していた。残り五分。……三分……二分……フラッグが下ろされた時、風船が音を立てて同時に割れた。


 「くぅ、惜しい!ここからはビデオ判定になります!!」


スローモーションで再生すると、コンマ一秒差でタイムアウトしていたことが分かった。学生達は悔しそうに嘆いていた。


 


 「悔しい!!ロスが無ければ勝ててたんだ!!」


 「俺達は全部割ったのに、時間差で負けるなんて!!」


 幹人は、学生を慰めながら会場を去って行った。残るのは鏑木工業大学のみ。ここまでの辛酸を嘗(な)めさせられた闘いは、初めて見た。興造は学生に「勝って貰いたい」と、熱く胸に誓ったのだった。




**


 「さて、ワーテック・ロボコン。残す所は最後の大トリであります、鏑木工業大学です。幾度も雪辱を味わせられたこの会場の四本の円柱モンスター!!彼らは、一体どんな形で成績を残してくれるのでしょうか?」


 「一言言わせて貰うわ。富士通 幹人助教授じゃないけれど、『久保田興造』を舐めない方がいいわよ」




 学生と共に興造は登場する。そして会場の他校が見守る中、博光がロボットの解説を始めた。


 「僕らのロボットは、基本に忠実に『二足歩行ロボット』を手掛けました。足の関節は二七〇度まで曲げられるし、軸足はしっかりとスプリングを搭載して、衝撃を和らげるように作ってあります。また全身には柔らかい毛皮製の毛が、手先まで覆っているので、絶対に派手なことは出来ません」


みちかが博光からマイクを受け取って話す。


 「『WalKing・Grizzly(ウォーキング・グリズリー)』って名前です!!まさかここまで、動物縛りになるとは思いませんでしたけどね。『歩く』と『王者』と『ハイイログマ』を掛け合わせてあります!!可愛いくまさんではありませんが、どうぞよろしくお願いします!!」


 


 盛大な拍手と歓声が上がった。それを開始の合図に一歩一歩進みゆく、ロボットグリズリー。その歩みは遅いが着実だった。円柱の前に立つと、その太い腕を振り回すように円柱に打ち当てて、風船を落としていく。その姿は、まるで木の幹から木の実を落とす、クマそのものだった。


 丘を越え、谷を越え。時間はかなりロスしていたが、一本一本着実に風船を割っていく。しかし、三本目に差し掛かった時点で既に二十五分経過していた。かなりシビアだった。


 「久保田教授、……どうしましょうか?」


 「ストップタイムが十五分ある。思い切ってそれに賭けよう。直前までメンテナンスをして来たんだ。派手な行動さえ起こさなければ、何とかなる!」




 三十分が経過し、アナウンスが入った。


 「さて、本来は三十分の制限時間でしたが、彼らはストップタイムを使っていない!……なので、十五分タイムに加算して、最後までやり遂げて頂きます。メンテナンスの時間はもう、残されていません!!」




 リモコンは、じっとりと昇(のぼる)の手汗で濡れていた。気持ちがかなり焦っている。やや体躯の大きいロボットだった為か、一本一本のポールを縫って進むのが、なかなかの難関だったのだ。残り五分。やっとの思いで円柱の前に辿り着いた。


腕を振るったが、バッテリーがかなり弱っているので、パワー不足だった。何度も円柱を打っていくうちに徐々に力が弱くなっていく……。ただただいたずらに時間が過ぎていく……。




 「お願い!!最後だけでも!!」


 つぐみが叫んだ。グリズリーは力いっぱい腕を打ち当てて、そのまま後ろにのけ反るように転倒し、バッテリーが切れた。風船はゆっくりと剣山の上に落ち、破裂した。学生達は頭の中がいっぱいいっぱいで、自分らが勝ったのか?それとも負けたのか?それすら、全く分かっていなかった。




 「おめでとうございます!鏑木工業大学の優勝です!!」


 盛大な拍手と共に、学生達は抱き合って喜んでいた。興造はホッとし、そのまま学生達を残して、会場を出ていった。




**


 「……おめでとう。頑張ったわね」


 「お前、どうしてここに?」


 「司会席から見えたのよ。あなたが出ていくのが。……これだけやったのに、退職は免れられないの?」


 「どうだかな。僕は疲れたよ。学生が頑張ってる姿が見られたから、後はどうなってもいい」


 興造は、泣きそうになっている雲雀の顔を見て驚いた。


 「……お、おいっ!どうしてお前が泣きそうになってるんだよ!!」


 「だって、悔しいじゃない。今の大学はやっぱり至上主義なの?それともあなたのキャリアが憎いから?全くもって理解出来ないわ!!……そうよ!!私の会社に来なさい。席はいくらでもあるわ?どう?あ、給料はこれくらい?……いや、もっと出さないと……」


 雲雀がぶつぶつと呟いていると、興造は「もういいよ」と言って、そのまま会場に戻って行った。




**


 芸術審査、それから技能的なことや、実用性を加味したボーナス審査が行われ、最終的に結果発表が成された。


 一着は不動の地位「鏑木工業大学」。そして二着は「鷲宮工業大学」。以下は僅差で「霞ヶ丘テクニカル・カレッジスクール」が三着となった。




 優勝の鏑木工業大学には、学生に賞金百万円とトロフィー。それから「就職口の斡旋」が決まった。興造はどこか寂しそうな表情で、学生を見ていた。


 「ねぇ、つぐみ!!優勝したけど、アンタ……どこに就職するの?」


 「私は……あれ?久保田教授は?」


 「さっきまで、そこに居なかった?」


 「……私、ちょっと探してくる!!みちか、あと宜しくね!!」


 「えっ、アンタ、待ちなさいよ!!」


 戸惑うみちかをよそに、つぐみは宛ても無く、走るようにして会場を出ていった。




**


 ――学園前駅。


 「実家に帰って……親父の工場でも手伝いながら、細々と暮らすか。もう万策尽きたよ。『グリズリー』を造った時点で、僕は燃え尽きた」


 興造は、駅の構内のベンチで雪で湿った線路を見ながら、学生達には何も言わずに、実家に帰ろうと決めていた。「細かい荷物は後でまとめることにして、有休を消化しつつ、退職するのも悪くない」と思っていたのだ。


 「……あっ、待てよ?クオリアはどうしようか?……実家に連れて帰るか?うーん……」


 興造がベンチで悩んでいると、コンクリートに打ち当たるヒールの音と、息を切らして走ってくる女性の声がした。それはつぐみだった。


 「……はぁ、はぁ、はぁ。……教授!!黙って行くなんて卑怯です!!」


 「ぐみちゃん、会場に戻らないの?」


 「教授が心配でここまで来たんです。何を勝手にどこかへ行こうとしてるんですか?」


 「いやね、僕は大学に必要ない人間だから、実家に帰ろうと思って電車を待ってたんだ」




 つぐみは、その言葉を聞いて、肩を震わせながら泣き始めた。


 「……最低っ!!一番聞きたくなかったんです。その言葉!!」


 「だ、だってそうだろ?」


 「教授は何にも分かってない!!いや、分かろうともしない。私達がどれだけ教授のことを慕ってるのか?どうしてそうやって、全てを閉ざして逃げようとするんですか?……残された私は?学校の生徒は?講師は?……クオリアちゃんは?あなたは一体何がしたいんですか?全く、これっっぽっちも理解出来ません!!」


 電車が来て、人がまばらに降りる中、人目も気にせずにつぐみは怒りと涙を入り混じらせていた。興造は戸惑い、どうしていいか全く分からなかった。




 「……そうですよね。私が馬鹿でした。帰ります」


 「ぐみちゃん、待ってよ!ちょっと……」


 「さようなら。……好きにして下さい」


 興造が手を伸ばしたが、つぐみは会場に戻って行ってしまった。その夜「興造不在の打ち上げ会」が開かれたそうだ。しかし、どこか違和感があって学生達は何となく寂しそうだった――。




――【ver.4】に続く。


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