島家の状況
島克明と連絡をとると、向こうもこちらに連絡しようと考えていたという。
俺と葉風はスケジュールを調整して島の家へ出向いた。
「状況をお教えください」
島克明と令華が並んで座る正面で俺達は事情を聞く。
眉間に皺を寄せて島克明は話し始めた。
荼枳尼が祓ったあとは、何事もなく静かに生活していた。
ま、島の仕事が仕事だから、彼らの基準での静かということだろうが。
ところがここ最近……十日ほど、ボヤが起きたり車庫で車が爆発したりとトラブルが起きる。
調べても犯人が判らない。それどころかどのようにトラブルを起こしているのかも判らないでいる。
例えばボヤだが、火事を起こした火元が判らない。配線がショートしてとか、引火するような何かしらがあるとか、そういうところではない。では誰かが火をつけたのかと言えば、監視カメラで録画されているデータには誰も映っていない。
誰も居ないところで、引火するようなトラブルもないのに突然火がおきる。
車庫で車が爆発した際も、同じく犯人も原因も判らない。
他にも、配下が突然暴れ出して同僚相手に暴れ出す。仲間に取り押さえられ、正気を取り戻したときには、自分が何をしたのか覚えていない。
そんなことが最近増えているらしい。
「気味が悪いことが立て続けに起きて……」
島克明の横で令華が身体を震わせ不安そうに顔を向けた。
「そこで、巽先生に調べて貰おうと連絡を取る予定だったんです」
落ち着かせようと令華の肩に手を置き、島克明は説明を終える。
「どうして俺に?」
フィジカルトレーナーとしての俺は、業界で名前が知られ始めている。
しかし、霊気関係の仕事は表だってしていない。
「……実は……、巽先生が裏では霊関係のお仕事もしていると聞いたもので……」
「霊の仕事はしていませんよ? 除霊を仕事にしている知り合いは居ますけどね」
嘘じゃない。
除霊やお祓いは、俺にはできない。霊関係でいえば俺も葉風も対症療法しかできない。
根本的な問題を取り除けるのは荼枳尼だ。
玖音や泰山娘娘ならできるかもしれないが、今の俺達には残念ながらできない。
但し、相手があやかしというなら別だ。
幽状態のあやかしなら退治もできる。
いわゆる悪霊などの幽霊と、あやかしや仙人との違いは、霊核を持っているかどうかだ。
霊核を持っている相手なら、滅ぼすことも治療することもできる。霊核を持っているというのは、可視化されていようといまいと存在が確かだからだ。
しかし霊核を持っていない霊だと、霊気を感じることはできてもその存在をしっかりと認識すらできない。
だから俺と葉風にはお祓いはできない。
必要な修行をすれば可能なのだろうが、今はできないんだ。
「そ、そうですか……。ではどうしたらいいのか……」
端的に答えた俺に島克明は残念そうに瞳を曇らせる。
今日ここに来た目的は状況の把握だ。
朝凪は、霊ではなくあやかしが悪さしていると荼枳尼が言っていたと伝えてきた。
霊気を観られない人間には判らないだろうが、カメラに映っているのは幽状態のあやかしだろうと想定している。だから俺達が観れば状況は判る。しかしこの場で観ても、島達が居る中では葉風と対策を相談することもできない。
「監視カメラに残ったデータをコピーして貰えませんか?」
ビルへ戻り、じっくりと観て対策を練りたい。
悪さをしているあやかしの正体が判れば、打つ手はいくらでも見つかる。
「判りました。早速用意させましょう」
「誰かに言って持ってこさせてくれ」と令華に島は頼む。
頷いた令華は立ち上がり、部屋を出て行った。
俺達はその後ろ姿が扉の向こうへ消えたのを見送った後、島に訊く。
「この件に関係あるか判りませんが、島さんの組織に最近手を出してくる……そんなところはありますか?」
日本国内で最大の組織にそうそう突っかかってくるところがあるとは思わない。
だが、あやかしを使って嫌がらせをしている輩が居る。だから、島にも判るような形で動きを見せている者が居ても不思議じゃない。
単にその程度の気持ちで訊いたのだが、島は少し驚いたような表情で問い返してきた。
「……どうしてそんなことを?」
島の反応から、やはりあるという感触を掴んだ。
「いえ、島さんのお仕事柄、ぶつかる相手も多いだろうと。それでちょっと思っただけなんです」
俺の真意を確かめるように、島はジッと見つめていた。
「いや、お答えしていただけなければ困るという話しじゃないんです。ただ、これから調べていく上で参考になる話があればと……それだけですから」
無理に訊きだそうというつもりはない。
荼枳尼がわざわざ伝えてきたのだから、あやかしが関わっているのは間違いない。
ただ、あやかしが特定の家を狙い続けるからには理由があるはずだ。
その理由が、あやかし当人のものなのか、それとも別の理由に拠るものかはまだ判らない。
その点を明らかにする上で参考になる情報があれば、トラブル解決の役にたつ。
ま、あやかしを掴まえてしまえばはっきりすることだから、島から情報を手に入れられなくても特に困るようなことではない。
島の態度から判るのは、頻繁にあるだろうトラブルとは別の何かがあるらしいということ。
それだけ判れば、この場は十分だ。
俺を探るように見続ける島に笑みを返していると、令華が戻ってきた。
「こちらに全部入っています」と黒いUSBメモリを手渡す。
「ありがとうございます。霊関係にも詳しい知人と確認させていただきます。……遅くとも明後日にはご連絡しますが、それで宜しいですか?」
令華から島へ視線を移すと、先ほどの警戒しているような表情ではなかった。作り笑いだろうが、微笑みを浮かべている。娘の前では、ビジネス上の顔を見せないようにしているのだろう。
「ええ、宜しくお願いします」
「では私達は早速戻って確認します」
葉風と共に軽く頭を下げ、ソファから立ち上がり、部屋を出た。
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