幕間 ー 朝凪失恋日記

 ……また振られたっす。

 神渡ビルに来て二十数年経つんすが、もう三十人近くに振られたっす。

 幾つになっても、何度経験しても失恋はむちゃくちゃ悲しいんすよ?


 でも、妖狐の神様は……っつっても、絶対に泰山娘娘様じゃないっすけど、神様は居るんすよ。

 もしかして宇迦之御魂神うかのみたまのかみ様かもしれないっすね。


 だって失恋したのに、今回は気持ちいいんすもん。

 振られた場面を思い出すと凹むじゃないっすか?

 でも、違うんす。思い出すと気持ちいいんす。

 ご褒美っすよ? これ。


 風凪さんは、「頭どうかしたのか?」と心配してくれたっす。

 でもそうじゃないんすよ。数多あまた試練しつれんに遭遇したから、神様がご褒美くれたんす。これまでの苦労が報われたんす。きっとそうっす!


 「明日も治っていないようなら、総司に診て貰わなきゃ」って言っていたっすけど、そんな必要はないんす。中野さんが「ごめんなさい」と頭を下げたあと、ショックでしばらく手足が動かなかったくらいで、あとは問題ないっす。だって、気持ち良かったんすからね。何もおかしいことなんかないんす。


 気持ちいいことは正義っす!


 「振られて気持ちいいだなんて、バカじゃないの?」と風香さんに蔑まれても何も感じなかったのは、巨乳妖狐だからっす。「もっと蔑んで、もっと罵ってくださいっす」と頼んだら、風凪さんから「気持ち悪い! 近寄るな!」と……それが気持ちいいんすから。やっぱ巨乳はダメっすね。

 

 これって、新たな通力じゃないっすかね?

 朝凪独自の通力って格好よくないっすか?


 変態?

 違うっすよぉー。


 叩かれたり縛られたいなんて思わないっすもん。想像するだけで嫌っす。


 え? 言葉責め萌え? なんすかそれ?

 難しいことは判らないっす。


 でも、ワクワクするんすよ。

 だってこれから何度振られてもいいって思えるんすよ?

 振られるたび気持ちいいなんて、もっと早くこの力に目覚めたかったっす。

 もう、あれっすね。

 こっぴどく振って欲しいっす。逆に、OK貰ったら怖いって思えちゃうんすよ。


 新たな力を手に入れた朝凪に、期待して欲しいっすねぇ。

 曇兵衛にも自慢するんす。


 それに、振られてもいいって思えるようになったんで、全力で神渡ビルの女性陣に再アタックするんす。

 もちろん巨乳は除くんすけど、それはこの世の摂理ってもんす。


 頑張るっすよぉーー!



・・・・・

・・・


「ほら、病気だったじゃない」

「……」

「霊気中毒? そんなもんにかかるなんて朝凪くらいね。ああ、あんたの日記に書いていた新たな力? 独自の通力? プッ!! 総司の言うこと聞いて早く治しなさいよ?」

「また黙って見たんすか? 酷いっすぅうう」

「コピーとってあるから、曇兵衛にわざわざ自慢しなくてもいいわよ」

「……風香さん、いつもながら鬼っすね」

「いえ、妖狐よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る