I'm not isolate
「……メリー、あなたほどの人が何故、こんな事をしでかしたの」
「あなたほどの人、か。
そう、皆私の事なんか忘れてしまう。
夢から醒めたら、ここでの事は忘れてしまうわ。私の事も、ここで起きた事も、ね。
だから先に言っておくわ、私はあなたの言う通りメリー・ドラクーニ。
そして……夢を司る妖怪・
ごう、と
「夢の中でなら、私は何にでもなれる。何だってできる。人を夢中にさせる事も、その人の命を奪う事も」
どうせ夢だから現実じゃ何も起こらないけれどね、と彼女は諦めた様に
「だから夢の時間は終わり。皆起きなさい」
ふら、と眠っていた人達が一斉に起きた。
その目に、意識は感じられない。
「そこの二人に、悪夢を」
「待て!!」
ビルの上から声がした。
「呼びつけておいて正解っスね」
「……え?」
新澤の目が光る。まるでこの時をずっと待っていたかの様に、ギラギラと。
「指名手配犯メリー・ドラクーニ。
多くの罪状で逮捕状が出ている。夢の中と言え、お前はもう逃げられんぞ」
ビル上の声がヒュッと地面に降り立つ。
濡れ羽色の羽がハラリと舞い、その男はメリーに言った。
「烏天狗の、この俺からはな」
◇
警視庁怪事件捜査課、通称【カラス】。
そのエースであるこの男・
「お前は数多くの罪を犯した。自覚は……あるな?」
「ええ……そして今だって、罪を重ねようとしていたわ」
手帳を開いて、昏先は続けた。
「まず、対妖怪の精神攻撃。主にくすぐりなどだが……何人か後遺症を訴えている。
『あのくすぐりが忘れられない』とか、『あの3分間は悪夢だった』とかとか」
……え?
結夢は思ってもみない追及の方向に唖然とする。
「人間に対して、過度な恐怖心を煽る行為。
これは現行犯だから、言い逃れは無しだぞ」
「怯える顔を見るのが癖になって、つい……」
何だろう、昏先が言う罪状では、人間の警察では罪刑を法定出来ないと思うのだが。
「さて、お宅さん前科何犯だっけか?」
「35犯です……」
「はい、んじゃあ禁錮300年な」
「たった300年で良いんですか!?」
……とても人間のスケールじゃない話だ。
300年をたったと言えるのだから妖怪って怖い。
しかも前科多いんじゃないか、いや妖怪の感覚で言えばむしろ少ないのか……?
結夢はせっかく十数年かけて固めた常識を、突拍子もなくガチャガチャ
「……さて、メリー・ドラクーニ。お前には
「……じゃああなたが決めて?驚かせてしまったせめてもの償いよ」
おいおいちょっと待て。結夢はまだ頭の整理が付かなかった。だがその瞬間ふと、結夢がここに来る前に願った事がある事を思い出した。
「……じゃあプレゼント交換したい、かな」
◇
こうして結夢、新澤、螭子、化猫、メリー、そして何故か昏先も混ざってプレゼント交換をする事になった。
結夢「皆プレゼントは用意しましたね?それじゃあ同じ大きさの箱に詰めて……。
一人ひとり順番に、皆から見えない様にシャッフルして下さい。メリーさんからはじめて、最期に私が混ぜます。
そして混ざったのを各自選んで受け取る」
螭子「受け取る順番はどうすんの?」
昏先「それも決めるのか。面倒だから五十音順で良いんじゃないか?」
結夢「……私が最初ですね」
◇
各自プレゼントを混ぜ切り、最早どれが誰のプレゼントかも分からなくなった。
結夢は適当に選んで取る。
他の皆も適当に取った。
探偵さんは『名無しだから』と最後の一つを選んだ。残り物には福があるのだろうか。
「それじゃあ……一斉に開いて下さい」
かく言う結夢も、誰の何がプレゼントされるのかとドキドキしながら箱を開いた。
中には小さなクリスマスツリーが入っていた。
この雰囲気からするに、螭子さんだろうか。
「あ、結夢。それは私からのだ」
なんと探偵さんからのプレゼントだった。
センスを感じる。
「可愛いから部屋に飾りますね」
「ああ。そうしてくれると嬉しいよ」
他のプレゼントは以下の通りである。
結夢の手編みマフラーはメリーに。
メリーの腕時計は探偵さんに。
螭子さんの高級バニラエッセンスは新澤さんに。
新澤さんのサンタコスチュームは昏先に。
昏先の宇治抹茶は螭子さんに届いた。
「はぁ、楽しかった!もう思い残す事も無いわ。皆元いた現実に返してあげる」
メリーは突然そんな事を言った。
プレゼントを名残惜しそうに見つめて、何処か寂しそうである。
「私で良ければ……毎晩は流石に大変かもですけど、夢の中で会いませんか」
突然口を突いて出た言葉に結夢本人も驚く。
まさか自分がそんな事を言うとは、全く思っても見なかったのだ。
「……良いの?」
「独りぼっちって寂しいじゃないですか。
私にも出来る事って、その位しかないですけど」
「結夢…………私の事、夢から醒めたら忘れるのよ?あなたほどの子が、そんな事も覚えられないの?」
「いいえメリー、忘れないわ。
少しだけだったけど楽しい時間だったでしょう?その時間を一緒に過ごした友達を、忘れるはずないじゃない」
メリーはそれを聞くと頬を赤く染めあげて泣いた。
結夢の胸に飛びついて腕の中で咽び泣いた。
「……夢で待ってるわ、結夢」
「それじゃあ……メリー・ドラクーニ。
午後……いや現実時間だと午前だな。
11時43分、恐怖扇動罪で現行犯逮捕な」
と、昏先が手錠を掛けた途端、東京の街が大きく揺れ始めた。
「やべ、この手錠掛けたら能力封印されんの忘れてたわ。急いで逃げろ……つっても、夢だから醒めるわな」
「昏先さん、彼女達を現実に帰す為に、一度だけ能力を使わせて下さい。
不都合が起きれば、彼女達は目覚めなくなってしまうかも知れない」
「…………分かった。起こしてあげろ」
「また逢いましょうね、結夢、探偵さん」
彼女の手が淡い光を帯びる。
まるで母親が起こしに来て自分を揺すった時の、あの温もりの様だった。
結夢達はそして、夢の世界の意識を失った。
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