Another trippers

雲外鏡【うんがいきょう】とは。


名前の通り鏡の妖。様々な説が唱えられる創作妖怪であるが、ここでの雲外鏡は妖気の込められた陽気で大きな鏡である。決してダジャレではない、どうしてもの込められたな鏡なのだ。


「ハローお嬢ちゃん方!その防寒着イカしてんなぁ?どうだい、ボクちゃんとアラスカまでハネムーンってのはさぁ?」

「それはまた今度、ゆっくり二人でしましょう?私達、実はあなたにしか出来ない事をどうしても頼みたくて、こうしてあなたを呼んだのよ」


ここぞとばかりに、普段使わないお嬢様オーラを発揮する結夢。彼女は本来、文字通り本当のお嬢様である事を忘れている人も多い。


「ボクちゃんしか出来ない……!?

良いゼェ、その頼み、君の麗しい瞳に免じて聞こうじゃないのさ」

「私達……東京に行きたいんです!」



東京では寒空の下、化猫と螭子は人に化けて交差点の喧騒に紛れ込んでいた。

ここが果たして東京のどこで、どこから東京タワーに行けるのか、などの正確な情報を得たかったのである。


「今回のメリーのコンサートの会場は東京タワーのふもと、なんと屋外なのよ。

彼女も粋よね、スカイ何たらじゃなく、わざわざタワーでやるのにこだわったって言うんだから」

「彼女にとって、東京タワーは思い入れのある建築なんじゃないかな。ほら螭子にあるだろう?部屋に置いてあるテディベ……」

「ギャァァアアそれは言うな!!」


化猫は性格も温厚で良い奴だが、女性の気持ちは全然理解出来ていないのである。


「……ともかく、ここは人が多くて酔いそうだから移動したいわ。

私普段外出ないから、人混みは苦手なのよ」


そんな奴がコンサートとか大丈夫なのか?

化猫は口にこそしなかったが、ふとそんな疑問に苛まれたのであった。



「ヘイ到着だゼお嬢ちゃん方。今夜また夢で会おうな、チャオ!」


「……チャラ男は好みじゃないわ」


雲外鏡が去った後で、湊はそんな事を言った。その顔は酷く疲れた様子である。


「チャラ男というか……キザ男?

とにかく、普段しない事をするモンじゃないわぁ。私もなんか疲れちゃった」


お嬢様オーラを使用するのは、普段からそうではない結夢には堅苦しいものだった。


「2人とも、まだ到着したばっかりっスよ?

しかも……多分ここ東京じゃないっス」

「「はぁ!?」」


新澤が東京じゃないと言うのも無理は無かった。街はクリスマス一色に染まり、彼の知る東京よりも華やいだ雰囲気が醸し出されていたからである。


「なんスかこのギラギラした街は。オレ、日本にこんな街があるなんて知らないっスよ」

「あれ、新澤さんアレアレ!!」


湊が指差す先、そこには橙に彩られた鉄の塔が顔を覗かせていた。

結夢は少し奇妙に思った。

渋谷ここから東京タワーははずなのだから。

仮に見えるとしても、スクランブル交差点からは見えないとインターネットで見たと思ったが。


心に奇妙なモヤモヤを抱えたまま、しかしそれを切り出すキッカケも無く、結局その疑念を黙りこくってしまった。


「あ、東京タワーあるなら東京確定っスね。

良かった、間違いはないっスね!!

じゃああの東京タワーまで行くっスよ。探偵さんも螭子ちゃんも多分待ってるんで」


こうして東京タワーへ、一行は向かうのであった。



「ところでこのギラギラしてるのは何なんスか。何だか東京じゃないみたいっスけど」

「クリスマスだよ。新澤さん、もしかして知らないんですか!?」

「それって……栗金団の親戚っスか?」


その時湊に電撃走る。

クリスマスを知らなかった事への驚きより、彼女は栗金団の方を思い出せなかったのである。


「あれ……クリ、キントン…………?

栗で育てた高級豚か何か……?」


お互いに理解に苦しむ謎にユニークな構図が出来上がってしまい、見ていられなかった結夢は互いの勘違いを解くべく解説する。


「栗金団はおせちの具!栗で出来た縁起物!

クリスマスは外国のお祝い!聖人の誕生日!

ざっくりだけど分かった!?」

「「さっすがお嬢様!普段全然そんな雰囲気出さないのに!!」」

「一言多いわ!!」


諭すべき時は手を差し伸べ、しかし叱るべき時は叱る。これぞ一人前の淑女レディ……と、母・夢乃ゆのから習った事を実践したまで。結夢からすれば解説の仕事は慣れたものであった。

が、さすがにツッコミまでは中々やらない。

今日はやはりイレギュラーだらけであった。


「……もう。大きい声出したから疲れちゃったじゃん。お詫びとして探偵さん達と合流したらプレゼント交換でもしましょうよ」

「……ぷれぜんと……?」

「なんでプレゼント交換するの……?」


二人とも、さすがにのやり方は知らなかった。これまた説明か……と結夢は小さく溜め息を吐いたのであった。



楽しそうな事をしてる……。

私も、あの中に混ざりたい。

……そうだ、ならあるじゃない。

そうよ、良い事思いついちゃった。

今年は、今年こそは楽しい日にしなきゃね。


はじめての、独りじゃないクリスマスは。

ワイワイ騒いで、じゃんじゃん食べて。

そう……って言葉が合う、そんなクリスマスにしたいな……。

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