クリスマス企画イベント小説

笹師匠

The coldest December

拙作を読んでない人のための簡単?なあらすじ。本編1章までのネタバレ注意。

衣繍いぬい結夢ゆゆはお嬢様高校生。ある日飼い猫が怪死を遂げ、警察に通報するも相手にしてもらえず、路地裏に事務所を構える私立探偵に依頼する事に。

結局結夢に取り憑いた管狐が犯人であった事が分かり、事件は一応丸く収まった。

……結夢が一度死に、猛毒を使用した蘇生手術を新澤しらさわ織春おりはるに施された事以外は、だが。

後日から彼女は、探偵事務所に術後経過を診察して貰う為に事務所に通っていたのだが……。


それではいつもと違う『探偵は化猫さん』、はじまりはじまり。



術後経過を見て貰う為、衣繍いぬい結夢ゆゆは今日も探偵事務所を訪れていた。

今日は平日だったが、仮病を使って休学した。いわゆるズル休みである。


実は密かに、この探偵事務所に来るのが楽しみになっていた結夢。個性的な面々とする話は、いつも学校でするそれとは楽しさの質が全然違うのであった。


「あれ……衣繍結夢じゃね?アンタ何でここにいるの?」

「それは私のセリフなんだけど……」


結夢の通う高校の制服姿が1人、何故かカバンも背負わずに結夢の後ろを歩いて来ていたのだ。


「ねぇ、久しぶりに会ったんだし遊びに行かね?ゲーセンとかゲーセンとかさ!」

「ごめん、というか名前忘れちゃったんだけど誰?」

「えぇぇっ、そりゃないよ幼馴染!小学校低学年から同じ進路を辿って来てるのに!

……不来江こずえみなと!!」


そういう彼女の顔を見てようやっと思い出した。彼女はこう見えて優等生のはず。なぜ高校をサボってこんな所にいるのだろう。


「いやぁ〜……その、ね?

今日午前中の授業がめっちゃダルいし、しかも今日クリスマスイブだし?

つい単位計算して、休めそうだったからズルしちゃった☆」


しかも湊が言うには、すぐ脇にある建物は彼女の家らしい。一階は小さな電器店だ。

ショーウィンドウに置いてあるテレビを見ると、画面の向こうで白髪の美少女が落ち着いた良い声で歌を歌っていた。


「良いよねぇ、メリー・ドラクーニ。

突然現れて、あっという間にアイドルの頂点。テスト勉強もそんな風に楽なら良いのになー」

「へぇ……アイドルなんだ……」


アイドルってもっとキャピキャピしているものだと勝手に思っていたが、美人だし歌も上手いし、確かにアイドルなのかも知れない。


「ねぇねぇ結夢、私もついて行って良い?

何で路地裏なんかに行くのか、ちょっと気になるんだけど」

「良いけど……ツナ缶はある?」



路地裏を進むと、そこには探偵事務所が。


「無い!?え、ちょい待ってなんでなんで」

「お、結夢ちゃんじゃないっスか!!」

「新澤さんこれどうしたの!?」

「いやぁ……螭子ちこちゃんが暴走しちゃって。

勢いで東京までぶっ飛んで行っちゃったんスよ。……探偵さんを連れて」


なんでも探偵さんは『東京タワーで待つ』と言い残したらしい。

東京タワー……港区か。


「で、何で螭子さんが暴走したんですか?」

「当てちゃったみたいなんスよ」

「は?」

「メリー・ドラクーニのライブチケット、当てちゃったみたいなんスよねぇ」


……メリー・ドラクーニ。

1日に2度も聞いたはじめての名前。どうも自分と無関係とは思えなかった。


「新澤さん、私東京行ってみたいです」

「そんな事言ったって。そんなすぐには……」


言いかけて、新澤はふと事務所のロフトへ上がっていった。そこに何かあるのだろうか。


「……あったっスよ、曰く付きの移動手段っスけど、余程じゃ無ければ失敗しないヤツなんで多分大丈夫っス」


そう言って持ち出して来た箱には、厳重にお札が貼られまくっていた。本当に大丈夫か?


「じゃじゃん!何と中身はかの妖怪っスよ!

【雲外鏡】って付喪神、もちろん知ってるっスよね?」


私は噂程度にしか、湊は全く知らなかった。


「……じゃあ仕方ないっスね、不肖新澤が妖怪・雲外鏡について教えるっス!!」



その頃、東京。

その日は聖日前夜という事もあってか、はたまたそこに特別な意味を見出した恋人達によってか、いつも以上に交差点は喧騒に包まれていた。

その様を頭上、暴走する螭子の背から見ていた探偵はしかし、その原因の何たるかが全く分からなかった。


あまりに世間を知らな過ぎて、彼の年間行事予定表は遥か昔、江戸の頃から不変だったのである。


だからイースターは祝ってない、ハロウィンだって祝ってない、クリスマスも然り……となるはずだった。


螭子がその時、正気に戻らなければ。


「……はっ、私は今まで何を!?」

「おはよう螭子ちゃん。君は暴走して私を連れて飛び、東京まで運んできてしまったんだよ。上空は寒いだろう、マフラーどうぞ」

「ありが……は?東京!?」


そんな螭子の下では、既にクリスマスムードに満ち満ちた摩天楼が、関東平野の南側に広がっていたのだった。

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