夢見銃

 疲れ果てていたのだろう。


 事件の日はすぐに秘密基地の毛布で寝れた。


 朝日で目が覚める。


 秘密基地で目が覚めたことで、実感する昨日が嘘じゃなかったのだと。


「なんで……。」


 寝て起きて落ち着いたことにより、現実感が増す。


「なんでよ……っ!」


 悔しさと悲しさで改めて涙が溢れ出す。


 もう楽しかったあの日には戻れない。


 この虚無感も涙を増長させるのだった。


 どうしてこんなことに?


 何が悪かった?どこに私の落ち度があった?


 思い返せば返すほど、自分の無力さを感じて自分が嫌になる。


 私はこれから何をすればいいの?


 生きることに意味なんてあるの?


「お姉……ちゃん?」


 隣でもぞっと白が動く。


 そこで気づく。


 ここには私だけじゃないと。


 私だけだったら、全てを投げ出していただろう。


 でも私には白がいる。


 唯一残った大切な人。


 大切な家族。


 大切な妹。


 そうだ。挫けるわけにはいかない。


 私の生きる目的は…白を幸せにしてあげること。


 この子が不幸になっちゃいけない。


 そんな悲しいこと……しちゃいけない。


 私は確固たる決意を胸に固める。


 これが私の……私が精一杯生きる理由なんだと。


 自分に言い聞かせた。


 前のようなみんな笑顔で楽しい日々は戻ってこないけど……


 またきっと楽しいことがあるはず。


 否、楽しいことを見出す。


 この私が白のために。


 ポワッと光が出てきた。


 光……?


 お日様が出ているのに、目の前にさらに光が見える。


 あまりの突然の不思議な光景に目を疑う。


 まだ夢の中なのではないかと思うほどだった。


 しかし、頰をつねっても痛いし現実なのは確かだった。


「なんなのよ、これ……。」


 確かめるように呟く。


「んぅ……。」


 その光で完全に目が覚めてしまったらしい、白は寝ぼけ眼を擦りながら上体を起こしていた。


「初めましてだな、お嬢さん方。」


 光の中から声がしたと思ったら、光は消えいつのまにかそこにハットをかぶり、マントを身に纏い、如何にもマジシャンといった格好のおじさんが現れた。


「おじさん誰?」


 白がキョトンとした顔で怖がることなく問うていた。


「わしは、君らを救いに来たのだよ。何でも叶えてくれる魔法をくれてやろうと、ね。」


 唐突に現れては、まるで現実味を帯びてないことを言ってきた。


 魔法をくれる?


 何を馬鹿げたことを言っているんだろうか?


「まほー?それってみんなが笑顔で幸せになれるの?」


 白はそれを信じたかのようなに聞き返す。


 いや、もしかしたらこれが普通の子供の反応なのかもしれないけども。


「あぁもちろんだとも。わしが言うことを素直に聞いてくれたらだがね?」


「白ダメ!知らない人の話なんて聞いちゃダメよ!」


 またしてもこの感覚。


 嫌な予感。


 さっきからこの感覚があったらロクなことがない。


 というより、悪いことばかり起きてしまっている。


 もし、また同じようなことが起こるとしたら?


 考えたら恐ろしい。


 私はそれを阻止するように声を上げる。


「教えて!私はどーしたらいーの!?」


 しかし、白は無情にも私の言葉を無視した。


 いや、聞こえてなかったのかもしれない。


 こんな状況で甘い餌とも呼べるものが転がり込んできたのだから…


 こんな状況での人間の判断なんて正常であるわけがない。


 むしろ、私の方が異常なのかもしれない。


「この拳銃を持ちたまえ。」


「っ!」


 謎のおじさんは懐から拳銃を取り出し、白にそのまま渡した。


 少し重かったのか、白は少しバランスを崩していた。


「何やって…きゃぅ!?」


「心配せずとも君の分もある。」


 2人の間に割って入ろうと前に出た瞬間に、右手に重量感。


 驚いてそのまま尻餅をついてしまった。


 これは……


 そう、いつ渡されたのかは知らないが、私の右手にも拳銃があった。


 戸惑う私をよそに、謎のおじさんは説明を始めた。


「この拳銃の名前は夢見銃。君たちから見たらただの拳銃と変わりないだろう。しかし、この拳銃を使用して心の底から憎い相手を撃ち殺すことで君たちの夢が現実のものになるという代物だ。」


「これで……誰か……を?」


「白ダメ!変なこと考えたらダメよ!」


 こんなことで白が真っ当な人生を送れなくなったらどうしよう。


 不安で胸が張り裂けそうだった。


「ただし、憎い相手を殺した時に自分が殺した時点での強く思っていることが現実になると思ってくれ。そこは注意だぞ?」


「白やめ「するよ。家族みんなで笑える日々を取り戻すためなら。」


「白!!!」


 私の言葉なんてまるで耳に入ってはいなかった。


「契約成立だ。せいぜい頑張りたまえよ。」


 そう言って謎のおじさんは光とともに消え去った。


 私たちの手元に拳銃だけを残して……

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