第9話 魔王の証

 魔王城が再建されたある日の事。

 アリアンとリノが先に就寝し、セレスとレギーナの大人組だけが残ったリビングで、真一が真面目な顔をして話を切り出した。


「なぁ、ちょっと下品な質問をしていいか?」

「今日は履いていませんが?」

「セレスさんの下着の色じゃなくて……履いてないのっ!?」


 思わず椅子から立ち上がる真一を、セレスは極寒の瞳で睨みながら、ロングスカートの裾をたくし上げる。


「冗談に決まっているでしょう、セクハラゲス野郎」

「くそっ、ありがとうございます!」


 真一は騙された悔しさから膝を突くと、褐色の太股と白い下着のコントラストに向かって、感謝の土下座を捧げるのだった。

 そんな二人を見て、レギーナは楽しそうに喉を鳴らす。


「かかかっ、セレスの下着でなければ、妾の下着を知りたかったのか? いくら婿殿の頼みといえども、主様以外の男には見せられぬのじゃ」

「いや、俺もそこまで命知らずではないし、人妻属性もないから。まぁ、下着の色を聞くよりも失礼な質問かもしれんが」


 真一はきっぱりと断ってから、気まずそうに頭を掻きつつ尋ねる。


「魔王様との子作りって、物理的に大丈夫だったのか?」

「なるほど、そのお話でしたか」


 確かに下品だが気になる話だろうと、セレスも納得した顔で頷く。

 背丈が人間の二倍以上もある、巨大な蒼き魔王ルダバイトとは異なり、蒼き戦姫レギーナは女性としては長身だが、人間と変わらない体格である。

 リノという結果が出ている以上、夜の営みが成功したのは間違いないとしても、体が裂けたりしなかったのか不安を抱くのも当然であった。


「魔王様はあっちも魔王級っぽいし、いくら体が頑丈な魔族といってもな……」

「かかかっ、確かに主様のはご立派じゃったのう。あの凶器では女淫魔とて楽しめまい」


 レギーナはそう言って、鍛えられた太い足を左右に揺らす。


「腕どころか足サイズかよ……」

「たとえ奥様であろうとも命はないでしょうね」


 真一とセレスは揃って顔を青くする。

 新たな命を生み出すための営みで死人が出るとは、冗談にしても悪すぎる。


「でも、リノちゃんが生まれているって事は、何か方法があったんだよな……」


 真一が真っ先に思いついたのは人工授精という方法であったが、文明レベルが中世ヨーロッパ程度の人間社会はもちろん、それ以下の脳筋な魔族社会にその発想があったとは思えない。


「だが、魔法もあるし似た事は可能か」

「またろくでもない事を考えていませんか?」

「聞きたい? グロいのとエロいの、二つ思いついたんだが」

「遠慮しておきます」


 平然とゲスな事を口にする真一がわざわざ確認を取るあたり、相当酷い方法なのだろうと察し、セレスは全力で拒否を示す。

 それを見て、レギーナは苦笑を浮かべた。


「主様は優しいからのう、妾を傷つけるような真似はしなかったのじゃ。というか、妾達は普通にまぐわってリノを生んだぞ」

「どういう事だ?」


 考えてもさっぱり分からず首を傾げる真一に、レギーナは楽しそうに笑いながら答えた。


「簡単な話じゃ。主様は妾とまぐわえる大きさにまで、己のご立派様を『形状変化シェイプ・チェンジ』の魔法で小さくしたのよ」

「……えっ?」


 一拍遅れてその意味を理解し、真一は思わず股間を押さえて震え上がる。


「マジで、自分のモノを小さく作り替えたのか?」


 豚頭オークのロースがモノのサイズを気にしていた事からして、魔族の男も人間と変わらず、大きい方が誇らしいという文化なのだろう。

 なのに、魔王は愛する女を抱くために、己のモノを躊躇なく縮小してみせた。


「妾が頑張って耐えると何度も言ったのに、主様ときたら『其方を苦しませるような体に未練などない』と言ってのう。言い出したら聞かぬ頑固な性格には、ほとほと困ったものじゃ……しかし、『其方の美しい体を抱ける喜びに比べれば、たとえ青き太陽にこの身を焼かれようとも悔いはない』などと囁かれては、腰が砕けてしもうて抗う事もできず――」

「また始まりましたか……」


 どうやら毎度の事らしく、長々と惚気話を始めたレギーナを見て、セレスは疲れた顔で閉口する。

 その横で、真一は感嘆の溜息を吐いていた。


「流石は我らの魔王様だな」


 体格だけでなく器も大きいその男っぷりに、真一は改めて敬意を抱くのであった。

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