第23話 「発信と試験です」
自室にもどり、滑らかで座り心地の良いチェアに腰掛けた。携帯を開き画面をフリックして文字を打つ。
さて、何を始めるかというと、勉強を始める前にSNSを始めた本来の目的についての発信をしてみようと思い立ったのだ。SNSを無事に始めることはできたし、目的は早めに達成したい質だ。
あの後真帆さんに相談し、教えてもらった注意点はこうだ。
ひとつ、相手のアカウント名やIDは明示しないこと。これは良くも悪くも影響力のある人間が一般のある特定の一人へ働きかけたとき、注目を浴びてしまうのは必至であるからだ。ともすれば晒しや炎上などといった事も起こりかねない。
俺は感動を伝えたかっただけなので、そういう事が起こるのはもちろん本意ではない。俺自身が好意的であっても、それを受け取る大多数がどういう事を考えるかというのが想像もつかない以上、この注意と配慮は必須。
ふたつ、必要以上の事は明言しないこと。今回はイラストや創作物などに対する感謝の気持ちだけを綴ることにする。
みっつ、誰にも分かりやすく気持ちを伝えること。これは最も初歩的なことだが、相手の行いに対して嬉しかったと伝えることが必要だ。曖昧にして勘繰ってしまう人がいたら困るし、またファンアートを描いてもらえるのではという打算も勿論ある。そして、感情を伝えることで俺がこの世界の一人の他者であることを知ってもらえる。
今までの紙面上、写真のみの存在であったため、その認識から自分達と同様の人間、他者という意識は若干低いのではないかと感じている。コンテンツではなく生きている一人の他者として認識してもらうという意図がある。
自分を売り込むにあたってはキャラクター作りも必要だろうが、ここら辺は五十嵐さんにも俺に任せてもらえているので好きにさせてもらうことにする。
少なくとも、これは俺が管理するアカウントなので、返信はなかなかできずとも相手からの言葉はダイレクトに入ってくる。この時、今のところ見かけはしないが、匿名性を傘に着て変な発言をする人間が現れるかもしれないから。
「とまあ、何個か挙げましたけど、祐太郎さんが納得できる言葉が一番だと思います。きっとみんな祐太郎さんの言葉や、想いや、性格、色んなことを知りたくて仕方ないはずですから!」
とは真帆さんの談だ。俺や、俺の発信を受け取る相手の事を良く考えてくれていて本当に有り難いと思う。いや、俺もSNSに強くないおっさんなので本当にな。しみじみとしてしまったな。
「……うん、こんなものだろう」
打ち込み終えた文字を眺め、不備が無いことを確認して投稿した。
どうか、あの絵を描いてくれた人にも俺の言葉が届くように願いながら。
「さ、明日はテストだ。出来ることは最後までやらなくてはな」
ふうと一息をついて、それから一時間半、俺は驚異的な集中力を発揮して勉強をした。
***
「あーあ、テストは幾つになってもいやですわー。小学生に戻りてぇ」
朝、隆臣が参考書を手に持ったままぐでんと机に突っ伏した。聡がその頭に重量感のある別の参考書をのせ、隆臣がぐえと呻いている。
その様子を声をあげて笑いながら眺めていた大鷹がふと俺の方を向く。
「神木は真面目だな!」
「いや、凝り性なだけだよ」
言われて苦笑した。
大鷹がノートを眺めていた俺に個包装のブドウ糖タブレットをポイと投げた。片手で受け取ると、大鷹はニカッと笑った。
「頭使うときはこれだろ。やるよ」
有り難うといって口に運ぶ。
「まあ、何だかんだいって、また神木が一位なんだろうなー。だが俺も今回は自信がある。勝負だ! 順位表ではお前の名前を俺の後に並ばせてやるからな!」
「望むところだ」
俺達は握りしめた拳をぶつけ合い、それから各々机に向かった。そうしているうちに教員が入室し、始業のチャイムが鳴る。
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