閑話 小野塚卓美の諦念
「小野塚ーーーッ!」
「はいはい何ですか清白様」
バターンと大きな音をたてながら自室にいたはずのお嬢様がリビングで家事をしていた私のもとにやってくる。
私は非常に面倒なので洗濯物を綺麗にたたみながら気もそぞろという風に返事をした。
「MAKOTOくんと祐太郎様の写真みて、みてこれ……この世の美しさではないわこれ……ここはいつから天界だったのかしら」
「新しい写真投稿されたんすか。良かったですね」
「そうなのよ……そうなんだけどね……」
失神でもしたのかというようにソファーに沈む清白様は放置し、渡された携帯を確認する。
『MAKOTOさんと一緒に撮っていただいた写真』
相変わらず堅めで素っ気ない文に、写真が三枚添付されていた。
一枚は中央大橋の水位観測所のあの特徴的な三角形を背景に、夕日のなか二人がこちらに振り向いている写真。
二枚目は二人並んで欄干に肘をつき、川を眺めている風の写真。
三枚目はMAKOTOと祐太郎様の二人が肩を組んでおり、MAKOTOは祐太郎様を見上げ微笑み、祐太郎様も屈んでMAKOTOと視線を合わせるように覗きこんで笑顔を浮かべている。
ほうほう。今回も完璧な即オチ構成ですね。
「あたしのHPはもうとっくにゼロよ」
「ははぁ、大変でしたね」
ソファーに置いているもちもちしたクッションに顔を埋める清白様の頭の上に携帯を置き、私は洗濯物を再びたたみ始める。
「これまで全く情報のない状態だったのに、いきなりこんな二日続けて供給があるなんて……心臓がもたないわよ!」
「あらあら」
携帯を後頭部に乗せたままの人が何やら言っているなぁ。
「何なのかしら……二人ともこんなに可愛くて美しくて良いのかしら……美しすぎ罪とかに問われかねないわ」
「それは怖いですねぇ」
「そうよ! だから変なファンがつかないようにあたし、ネットパトロールに力を入れなくちゃ」
「ほどほどになさい?」
はて、そういえば明日は全学年にテストがあるのではなかっただろうか。
「清白様、明日テストでは?」
「ギクッ」
「ちゃんとお勉強されたんすか?」
「だってぇ~集中出来ないよぉ」
うだうだ言うお嬢様をぎろりと睨み付け、ぐりぐりとこめかみで拳を擦り合わせる。
「いたたた、いた、いたーい」
「明日のテストはご家族に良い点数とるからと啖呵を切ったのではなかったのか?」
「ううっ声が低い! 本性でてるよ小野塚~、ってそれ」
「なんです。気をそらそうとしても無駄ですよ」
「ちがっ、あんたそれあたしの下着ぃ!」
清白様は私がたたんでいた洗濯物を指差してわなわなと顔を赤くした。
「自分で洗うからノータッチでいいって言ったのに!」
「何を今さら……清白様の下着なんて十二年で見飽きてますよ」
「ムキーー! 成長してますけど!?」
彼女はちょっとは意識しろぉとクッションにぽふんと顔を埋めて言った。くぐもってはいるが丸聞こえである。
全く、仕方のないお嬢様。そういうところも可愛いっちゃ可愛い……こともなきにしもあらずだが。
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