第16話 「級友です」
ゲームの原作知識があるといっても俺は自分でプレイした訳ではないため、元々公開されているキャラクター設定と第一章までのことしか知らない。
前世の親友と話すなかでゲームの結末についても多少教えられた気もするのだが、結構あやふやなのだ。
潮見の事とか、参考程度に真帆さんに聞いておこうかと思う。
「あんだよ」
潮見のことを眺めていたら凄まれてしまった。俺は目線をスイと動かし、手を伸ばして聡の隣の席の椅子を引いた。
「別に何も。ほら、座りなよ」
「指図すんな」
「もー、眼鏡くんてば素直じゃないんだから」
「祐太郎の傍に座りたかったんだろ?」
「んな訳ねーだろ、やめろや」
嫌なら無理に座らなくて良いんだが、彼は口と態度は悪いが実は意外と面倒見が良い。
これまでの学生生活でも俺が多くの生徒に囲まれて内心苛立っていた時に彼が間に割って入り人を散らしてくれていたものだ。
俺が話しかけると睨んできて嫌そうな顔をするのだが。
それに妙に目ざといのだ、潮見は。そしてどこにでも現れる。
……あと、よく隆臣が潮見のことを「祐太郎フリークの眼鏡」と呼んでいた。フリークかどうかは知らんが言うほど嫌われてはいないようだとは思う。
「眼鏡くん。おすわりして」
「宮崎聡、お前とは初対面だが金輪際相容れないことがよくわかった」
「そんなことはない」
「あん!?」
聡が潮見の腕を引っ張り、椅子に座らせた。
潮見が噛みついているが聡はそれをのらりくらりとかわしている。
「聡、あんまり嫌がることはするもんじゃないぞ?」
「わかった。祐太郎が言うならもう嫌がることはしない…………滅多には」
「オイいま小声でなんつったよ」
潮見の行動はカロリーが高いなぁと思いつつ、見かねて声をかけると聡から良い返事があった。
そして二人が言い合いをしている間に、いつの間にか聡の前の席に大鷹が座っていた。
まあ、騒がしいが結構楽しげな席順に落ち着いたと思う。
大鷹の隣には赤毛の大人しそうな女子生徒が座り、それから一気に俺たちの周囲から順に席が埋まっていった。
***
「なんっっで昼食までテメーらと一緒に食わにゃならん」
「なにいってんの眼鏡くん。早く学食いくよ」
「お前は一体何様なんだ宮崎聡」
昼休み。俺たちは五人で学食へ行こうという話をしていた。
聡と潮見の言い合いを見ている分には面白いのだが、こんなに嫌がるなら無理強いするべきことではないので俺は口を開いた。
「潮見、残念だが予定があるなら無理するんじゃないぞ」
「はん、お前はいつもいつも……」
「あっ気遣われてときめいてる……!」
隆臣が声を上げた。ときめいている?
「きめぇ、やめろ」
「隆臣。変なことは言うもんじゃない。悪いな潮見」
「……神木……別にお前に謝られる筋合いはねぇ。ほら、学食行くんだろ」
「……そうだね。行こう」
そうして結局俺たちは五人で学食に行くことになった。
潮見の友人になるには、ちょっと強引なくらいが上手くいくのだなと認識を少し改めた。
俺は昔から、優秀で勝ち気な人間のことは嫌いじゃないので彼とこのまま友人になるのもいいなと思っている。
教室から出る俺たちを見つめる周囲の多くの視線を感じつつ、この時の俺はそれらの視線のなかに他とは違うおぞましい視線が紛れているとは気がつかなかったのだった。
***
我が校は資金も設備も潤沢であり、それはたとえ学食であっても同様である。
食事スペースとして、見通しの良いホールを採用し窓も大きく高い。一流ホテルのそれのように整ったその空間に、一際丁寧に作りこまれた場所がある。
そこでは歴代の生徒会役員、およびその者たちに招待された者たちしか食事をとることが許されない。
学食全体を見渡せる二階席になっており、ここはどんな金持ちでも各方面で優秀でなくては入ることはできないのだ。
「祐太郎は本当、こういう場所似合うよねー」
「神木は顔の良さに知性が滲み出てるからな」
というのは隆臣と大鷹の談である。
「それはどうも」
気のない返事をして食べ進める。
俺たちはその二階席で食事をしている。特別扱いを享受しひけらかすのはくだらないことだが、ここは人目が少なく楽なため昔からよく利用している。
一緒にランチをいかがですか、等と俺の家の名声目当ての人間に誘われたときにも、あの場所で食べる先約があるからと言えば皆一発で引き下がってくれる。便利なものだ。
隆臣と大鷹と聡は育ちざかりだなんだと言って、食後のデザートを買いに下に降りていった。つまり、今は俺と潮見の二人きりだ。
「……おい、神木」
「なんだ?」
さっきからずっと黙っていた潮見が俺に話しかけてきた。和食を食べていた箸をとめてそちらを見る。
「お前SNSを始めただろ」
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