第15話エール

「ストレッチ終わり!今から四人ずつ泳いで行くぞ!!男女二人ずつだ!!!」


 体育教師の指示に従い、プールに入る。

 男子と女子、二人ずつの計四人。


「始め!」


 体育教師が笛を吹き、生徒達は泳ぎ出す。

 直樹は胃がキリキリとした。

 自分だけ50メートル泳げなかったらどうしよう、と考える。

 自分の番が回ってくる前に、他の生徒が失敗すれば良いのに、と思った。

 適当な男子生徒よ、足を攣れ!と思った。



 しかし願いは届かず、直樹の番がやってくる。

 プールに入ろうと歩く途中でソフィアの直ぐ傍を通った。

 その時に、


「直樹くん、頑張れ!」


 とソフィアが声を潜めてエールを送った。

 直樹は俄然やる気になる。

 50メートルなんて余裕だ、と思った。

 なんなら100メートルでも泳いでやるぜ、と思った。


「なに、ソフィアは直樹くんと、もう仲良くなったの?」


 ブロンドヘアーにグリーンアイの女生徒、レイナがソフィアに訊ねる。

 レイナは巨乳で、男子生徒達の視線を一際集めていた。


「う、うん。まあ、仲良くなった」


 ソフィアは少し頬を赤らめながら肯定する。


「好きなの?惚れたの?」


 レイナは遠慮せずに質問した。


「う、うーん、まだ、自分の気持ちもよく分かってないけど、もっと直樹くんと一緒にいたいなって思うよ」


 ソフィアは照れながら答える。


「ソフィアって凄いよね」


 とレイナは言う。


「え、なにが?」


「聞いてる私の方が照れちゃうよ」


 とレイナは言う。


 ソフィアとレイナが話している間にも直樹は歩いていた。

 プールに入り、構える。


「始め!」


 体育教師が笛を鳴らす。

 直樹は泳ぎ出す。

 直樹には秘策が有った。

 と言うか思い付いた。

 直樹は息継ぎが苦手で、息継ぎを繰り返す毎に呼吸が浅くなる。

 それならば、息が切れる前に50メートルを泳ぎ切れば良いのだ。

 早く腕を回し、早く足を動かす。

 早く、早く、より早く。



 息が苦しくなってきた、と直樹は思った。

 必死になって泳ぐ。


 しかしその時、直樹は足を攣った。


「っがふぁっ!!」


 足を攣った直樹は蹲り、ますます呼吸の余裕を失くす。


「あれ?誰か溺れてねえ?」


 一人の生徒が気付く。


「ホントだ」


「誰だアイツ」


「直樹じゃね?」


 生徒達が騒然とする。


「アンタの彼氏じゃないの」


 とレイナが横を向いて言った時、ソフィアの姿は既に無かった。


「待ってろよ!今、先生が助けてやるからな!!」


 体育教師がシャツを脱ぎ、笛を首から外す。

 そうしている間に、ソフィアがプールに飛び込んだ。




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