第9話尊敬

「あの、じゃあ、お友達から」


 ソフィアは握手の手を差し出す。


「はい!ありがとうございます!!」


 直樹は差し伸べられたソフィアの手を傷付けないように、しかしシッカリと握った。


「それじゃあ、私、向こうだから」


 ソフィアは道を指差す。


「そうですね、俺はこっちです」


 直樹は反対側の道を指差す。

 言ってから気付いた。


「ソフィアさん!送ります!」


「そんなに気を使わなくてもいいよ?」


「俺がソフィアさんと少しでも長く共に時間を過ごしたいんです。迷惑ですか?」


「それなら、お願いしようかな」


 ソフィアはクスッと微笑み、直樹と歩き出す。




 直樹とソフィアは歩きながら互いに話し合った。

 今までどんな人生を歩んできたのか。

 高校生の人生なのだから、波乱万丈でも無い。

 ただ、直樹はソフィアに自分の事を知って欲しいと思ったし、ソフィアには偽りなく自分の事を話せた。

 そしてソフィアの事を少しでも知りたいと思った。




「それじゃあ、私のマンションここだから。ありがとうね」


「また明日、会えるのを楽しみにしています」


 直樹は今までの自分が嘘のように心の言葉を声にしている。


 ソフィアはマンションに入る。それを見届けて直樹は踵を返す。


「直樹くーん!」


 ソフィアの声がした。

 直樹は振り返る。

 ソフィアはマンションから出てきていた。


「どうしたんですか?」


 直樹は駆け寄り訊ねる。


「あのね、私たち、恋人になった訳だよね。友達からだけど」


「はい」


「だからね、敬語じゃなくて、学校で会った時みたいに話してほしいの」


「でも、俺はソフィアさんを尊敬してるんで」


「私も直樹くんを尊敬してるよ。でもね、友達みたいに話した方が、もっと仲良くなれると思うんだけど、どうかな?」


「はい、じゃあそれで」


「はい、じゃなくて、うん、でしょ!いい?」


「う、うん」


 直樹は気付いた事が有る。

 ソフィアの目を見ていると、反発出来なくなる。

 或いは、困難になる。


「じゃあ、また明日」


 ソフィアは手を振りながらマンションへ歩き出す。


「また明日」


 直樹も手を振り返す。

 ソフィアがマンションに入った事を確認し、念の為に5分ほどその場で待機した。

 そして帰路に就く。




 家路に就いた直樹は手を洗わずに自室に籠り、ソフィアと触れた手で自慰に耽った。

 完全には浄化されていなかった。




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