第8話愛

 直樹の魂は救済されたのだ。


「ソフィアさん」


 直樹はソフィアの名を呼ぶ。


「なあに?」


 ソフィアは直樹から身体を離し、ハンカチを取り出す。


「涙も拭かないとね」


 そう言ってソフィアは取り出したハンカチで直樹の涙を拭う。


「ソフィアさん。俺はソフィアさんが好きです。ソフィアさんを心の底から愛しています」


 直樹はソフィアの目を真っ直ぐに見詰めて告白した。


 今まで直樹がソフィアの目を真っ直ぐと見る事が出来なかったのは、性欲と照れの為だった。

 そして保険と自己愛。

 しかし今、直樹の心には癒しと、ソフィアを想う、愛で満たされている。

 直樹は人前で涙を流さないように努めてきた。

 自分の弱さや愚かさを可能な限り、隠していた。

 だが今日、ソフィアの前で涙を流し、己の弱さや愚かさを自白した。

 それはある意味での懺悔だった。

 自分自身への懺悔。

 それをソフィアは無償の愛で包み込み、許しを与えた。

 説教では無かった。

 ただ、愛。

 山田直樹と言う一人の人間が救われた。

 砕け散っても、悔いは無かった。

 直樹はソフィアを見詰める。

 見詰め続ける。

 すると、初めてソフィアから目を逸らす。

 駄目か、と直樹は思った。

 しかしそれは清々しい気分だった。


「すいません、いきなりこんな事を言ってしまって。ソフィアさんの気持ちも考えずに」


「えっとね、そうじゃなくて、なんだろう、私、男の人からそんな事言われたの、初めてだから」


 ソフィアは頬を赤らめる。


「あの、あの」


 ソフィアは口籠る。

 直樹は静かにソフィアの言葉を待った。


「私、まだ恋愛とか分からなくて、でも、直樹くんがね、他の女の子と仲良くしてたら、もどかしくなるだろうし、それに、もっと直樹くんと仲良くなりたいと思うの。

 だから、あの、少しずつで良ければ」


 そう言ってソフィアは直樹を見る。


「恋人になってくれるんですか!?」


 直樹は驚き声を発した。

 棚から牡丹餅だ、と思い、その後すぐに、その考えを浅ましく思い自己嫌悪する。


「あ、愛してるって、そう言う意味だよね?それとも、人として、って事?」


 ソフィアは直樹に言葉の意図を確かめる。


「両方です。女性としては初めて見た時から魅了されていました。そして今、ソフィアさんと一緒に歩き、言葉を交わし、人としても好きになりました」


 直樹は自分でも驚くほど、ソフィアに対しては素直になれた。

 今まで本音を隠してきた反動かも知れない。




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