第7話浄化
「どっ、どうしたのっ!?」
ソフィアは慌てる。
「私、直樹くんに酷い事言っちゃった!?」
「違うんだ、そうじゃないんだ」
直樹は涙を拭う事も忘れ、否定した。
「今まで誰かに自分の話を聞かれた事、無かったから」
「そ、そうだよね、いきなり根掘り葉掘り聞かれたら迷惑だよね」
ソフィアは落ち込む。
「そうじゃないんだ!」
直樹は両手でソフィアの手を握る。
直樹は初めて自分からソフィアに触れた。
或いは、初めて自分から他者に近付き、距離を縮め、歩み寄り、触れた。
「俺、今まで誰からも関心持たれなかったから、自分を偽って、人との間に一線を引いて、人に関心が無い振りをしていたんだ。本当は、自分がひとりぼっちの孤独な人間だって気付いているのに」
直樹の心情の吐露に戸惑いながらも、ソフィアは真っ直ぐに直樹を見詰める。
その眼差しに誤魔化しは無かった。
「だから、自分は凄い人間なんだ、それを分からない周りの奴が間違ってるんだ、って自分自身に言い聞かせて来たんだ。でも、ソフィアさんに話を聞かれた時、ソフィアさんに話せる事が無くて、ああ、俺って何にも無いんだな、って気付いたんだ。
それで、怖いけど正直に言ったんだ。そしたら、それでもソフィアさんは俺に優しくしてくれたから、嬉しくなって」
直樹はソフィアと関わって、初めて自分自身の気持ちに気が付いた。
理屈では無い、感情だった。
直樹の涙は止まらない。
「よしよし、いいこいいこ」
ソフィアは直樹を抱き締め、直樹の頭を優しく撫でる。
「辛かったね、大変だったね。でも、頑張って言えたね。直樹くんはね、きっと、今まで周りの人との接し方が分からなかっただけなんだと思うよ?
だってね、私、直樹くんと知り合って間もないけれど、今日一日で、直樹くんの事、もっともっと知りたいなって思ったよ。
だから、周りの人たちも、本当は直樹くんの事もっともっと知りたいと思ってるんじゃないかな」
ソフィアは優しく抱擁しながら慈愛で直樹を包む。
救われた、と直樹は思った。
ソフィアは女神であり天使であり聖女であり菩薩だった。
直樹は宗教や信仰には縁遠い価値観の持ち主だったが、信じるべきもの、祈るべきものを見つけた。
虚しさを持つ心の内が、ソフィアへの想いで満たされ、止め処無く滾り溢れる。
愛を知った。
「それにね、もしも直樹くんが、ひとりぼっちだったとしても、私は直樹くんに会いたいと思うし、直樹くんの事を知りたいと思うよ。だからね、直樹くんは一人じゃないよ」
直樹の魂は完全に浄化された。
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