第3話:呪いの鍵手と謎の男
『あの女、本当に来るんだろうなぁ?』
エビルが問い掛ける。
「来いっつったんだから、来るべよ?」
アヴァンが答える。
レイヨール広場の時計塔のてっぺんに寝そべって、夜空を見上げるアヴァン。
約束の十二時まで、後一分を切っている。
『けどよ。手を組むってどういうことだ? あいつは警官じゃねぇってことか?』
「ん~、わかんねぇ。来たら聞くべ」
『アヴァン……。お前がのんびり屋なのは知っているが、もう少しだけでいいから警戒心ってもんを持ってくれねぇか?』
「ははっ。おいらに警戒心なんて求めるだけ無駄だべ? それに、そんなに嫌ならおめぇさ、勝手に出ていきゃいいが」
『けっ! 出ていけねぇってのを何度説明すりゃわかんだ? 俺様はなぁ、呪いたくて呪ったわけじゃねぇってんだよっ!』
「おいらだって、呪われたくてこうなったわけじゃねぇが!」
二人が言い合いをしているうちに、時計の秒針は進み、時計塔の巨大な鐘が真夜中を告げた。
アヴァンとエビルは共にその鐘の音に驚く。
『かぁっ!? 真夜中にこんなでけぇ音が鳴るなんて、どこの馬鹿が考えたんだっ!?』
防ぎようのない騒音に、エビルが叫ぶ。
アヴァンは尖った耳を折りたたんで、出来る限り音を遮断しようと試みる。
そして、十二回目の鐘が鳴り終わった時、暗い夜空から、一羽の巨大な鳥が舞い降りてきた。
敵襲かと身構えるアヴァンとエビルが目にしたのは、この世の者とは思えないほどに、美しい生き物。
背に白い翼を持った、天使……。
「こんばんわ。良かった、ちゃんと時計塔の場所がわかったのね」
聞き覚えのある声と、にっこりと笑うその顔は、ロゼッタだ。
だが、アヴァンは相当驚いてしまったのだろう、大口を開けたまま身動き一つとれないでいる。
翼を持ったロゼッタの、そのあまりの美しさに言葉を失っているのだ。
「それにしても、本当に迷惑な鐘の音……。いくら町の端まで届かせたいからって、これじゃあ騒音も騒音、公害もいいとこだわ。そりゃ、お金持ち様たちのお家は壁が厚いだろうから、多少音が大きくても気にもならないのだろうけれど……。私のような一般庶民が暮らす家は、壁なんてクッキーほどの厚さしかないんだから、迷惑この上ないったらないわ。まぁでも、お蔭で夜のお仕事も時間を間違えずに行えるから、悪いことばっかりでもないんだけどね」
ロゼッタが早口で話している間に、背中の翼はみるみるうちに縮んでいって、元の大きさへと戻った。
そして、ロゼッタの入れ墨は赤い色を取り戻した。
「さっそく本題に入りたいのだけど、いいかしら? コソ泥悪魔さん?」
腰を抜かしてしまったかのように座り込んだままのアヴァンに向かって、ロゼッタは優しく微笑む。
「あ……。おめぇさ何もんだ?」
アヴァンは、眉間に皺を寄せて尋ねる。
「あら? 自己紹介がまだだったかしら? 私はロゼッタ・グレーシア。このウェイクッドの町で捜査官の仕事をしているの。まぁ……。この時間帯は少し、違う職種なんだけどね♪」
茶目っ気たっぷりの笑顔で話すロゼッタに対し、アヴァンはまだ眉間に皺を寄せている。
「あぁ……。そうか……。だけどよ、おいらが聞きてぇのはそういうことじゃなくてだな」
アヴァンは、聞きたいことを上手く問うことができない。
『ったく……。お前は本当にとろい奴だなぁ、アヴァン。おうおう、娘っこめ。俺様達は、お前が魔族なのかどうかが聞きてぇんだっ!』
しびれを切らしたエビルが声を出した。
するとロゼッタは、アヴァンの中にいるエビルに目を向ける。
アヴァンの体と一体化してからというもの、誰かと目が合うという感覚を感じたことのないエビルは緊張し、固まる。
「魔族、ではないわ。けど、近しいものであることは間違いないわね……。私は、鳥の体を持つガルーダという種族と、人間の間に生まれたハーフよ」
ロゼッタの説明に、アヴァンは首を傾げたが、エビルは納得したようだ。
『なるほどな……。それで翼がな……。アヴァン、この娘っこ、お前とそう変わりないぜ。けどな……。悪いがアヴァン、お前の方が数段……、いや、格段弱い』
エビルの言葉に、アヴァンは更に眉間に皺を寄せた。
アヴァンは、見るからにひ弱そうなロゼッタを、上から下までじっと観察する。
身長は自分よりも随分低く、手足は棒のように細くて顔は林檎のように小さい。
どこからどう見ても、アヴァンにはか弱い女にしか見えない。
巷で真紅の悪魔と呼ばれている自分よりも、目の前にいる可愛らしいロゼッタが力を持っているなどというエビルの言葉を、アヴァンは信じられないのだ。
「腕力はないわよ?」
そう言って、ロゼッタは手の平を握って開いて見せる。
「力はないってよ?」
アヴァンはエビルにそう言った。
『馬鹿野郎! 魔力はあるに決まってんだろうがっ!』
エビルに怒鳴られて、アヴァンは心臓がドンッと揺れたように感じた。
「あなた……。アヴァンって言ったかしら? あなたそれ、自分の魂じゃないわよね?」
ロゼッタの言葉に、アヴァンとエビルはドキッとする。
「見せてちょうだい?」
あまりに唐突な申し出に、アヴァンは戸惑うが、エビルが見せた方がいいと考えていることを察して、渋々と服のボタンを外し、上半身を露わにした。
そこに現れたアヴァンの体、心臓のある部分には、歪なハート形の浅い窪みがあり、その窪みを埋めるかのように薄ピンク色のハーツが埋め込まれている。
ひび割れた陶器のような体に埋め込まれたハーツには、刺々しい黒い荊の模様が走っている。
久しぶりに自分の体を見たアヴァンは、悲しそうな顔になる。
しかしロゼッタは、思った通りだという風に、にやりと笑って、ゆっくりとアヴァンに近付き、その手でそっとアヴァンの体に埋め込まれているエビルのハーツを撫でた。
ロゼッタの行為に、アヴァンは今まで感じたことのない緊張感を覚え、心臓が破裂しそうなほどに鼓動が速くなる。
茹蛸のように赤面し、ドギマギとした様子で、身動きのとれないアヴァン。
「やっぱりね。このハーツは、エビルのもの?」
ロゼッタの言葉に、アヴァンはもうわけがわからないといった表情になる。
アヴァンはこれまで、異性とこんなにも近くで接したことがないのだ。
ロゼッタの体から漂う甘い香りに頭がぼ~っとして、息をすることすらままならない。
エビルは完全に諦めきってしまっているようで、何も言葉を発しない。
「ねぇ、詳しく聞かせてくれない? エビルとあなたの、馴れ初めっていうのかしら? どうしてそうなったのか……。その、左の鍵手のこともね。これから一緒に働くんだから、ちゃんとお互いの事を知っておいた方がいいでしょ?」
ロゼッタはそう言ってアヴァンから離れ、リラックスした様子で時計塔の一部にもたれ、腰かける。
アヴァンはようやく平常心を取り戻し、乱れた呼吸を整えた。
ロゼッタをチラリと見るアヴァン。
ロゼッタは熱のある瞳でアヴァンをじっと見つめて、返答を待っている。
アヴァンは、どうしてこんな事になったのかと一瞬考えたが、考えたところでわかるわけもなく、過去の話を出会ったばかりの相手にしたくはないが、話をせずにここを立ち去る方法もわからず、手を組むと言ってしまった以上は聞かれたことを話さなければと思い、同じように腰を下ろした。
アヴァンがまだ、小さな子どもの頃。
大陸の北にある人を寄せ付けない山奥に、オーレイと呼ばれる魔族の村があった。
そこには様々な種の魔族が暮らしており、アヴァンはそこで生まれた。
物心つく前に、アヴァンの父は行方知れずになり、母と妹の三人暮らしだった。
アヴァンの左手が鍵となってしまったのは、アヴァンが十三歳の時のことだ。
当時からのんびりとした性格のアヴァンだったが、若さゆえに好奇心が旺盛で、今よりも数段悪戯好きだった。
ある日アヴァンは、村の書庫で珍しい書物を発見し、字もまともに理解できないままに、そこに書かれている呪文を詠唱してしまう。
すると、アヴァンは闇の聖霊に取り囲まれて、呼び出したことへの対価を迫られた。
その状況に混乱したアヴァンは、どうしていいかわからず、ただただ泣き叫んだ。
物もわからない、年端もいかない子どもに呼び出されたと知った闇の聖霊は怒り、アヴァンの左手に望んでもいないものを残して去った。
闇の聖霊がアヴァンに残したもの、それは鍵と、悪魔だった。
アヴァンの身に起こった出来事は、たちまち村中に広まった。
村で一番の呪術師に見てもらったアヴァンだったが、鍵となった左手は一生元には戻らないとのことだった。
そして、その左手に取り憑いた悪魔とも、一生を共に過ごすことになるだろうと言われたのだ。
以来、アヴァンは左手を封じた。
見た目や形に囚われない考えを持つ魔族の間でも、悪魔に呪われた手を持つ者など一人もおらず、好奇の目がアヴァンに向けられたからだ。
誰も口にはしなかったが、明らかに気味悪がられていることを、アヴァンは痛いほどに感じていた。
それは、幼いアヴァンには耐えられない苦痛だった。
鍵の手を誰にも見られないようにと、左手に袋をかけ生活をしていたが、数年後には家に引きこもってしまった。
そんなアヴァンを、家族は優しく見守ってくれた。
特に二つ年下の妹のエイシャは、病的な母に代わって、献身的にアヴァンの世話をした。
そうして、五十年もの月日が流れた。
魔族は人間に比べて年の取り方が遅い。
六十歳を超えたアヴァンでさえも、まだ大人として扱うには未熟だった。
それに加えて、家に引きこもりきりだったアヴァンは、他の者に比べれば貧弱で、魔力も鍛えられていないために弱かった。
そんなある日、事件は起こった。
見たことのない男が一人、どこからともなくオーレイの村へ現れた。
その男は妙な呪文を唱えて、魔族たちが反撃する隙も与えずに、魔族たちの魂を次々と抜き取っていった。
異変に気付いたアヴァンは、家の外に出た。
アヴァンの目に映ったのは、変わり果てた村のみんなの姿だった。
隣の家の魔獣も、村長も、村一番の怪力で知られる古い友達もみんな、灰色の石と化していたのだ。
その中には、母と妹のエイシャの姿もあった。
アヴァンは恐ろしさの余りに震え上がり、助けを呼ぼうと声を上げ、そして、見つかってしまった。
村のみんなを石に変えた男が、アヴァンの前に現れたのだ。
一瞬の出来事で、アヴァンには何が起きたのかわからなかった。
ただ一つ記憶に残っているのは、鮮やかな黄色のローブだけだった。
しかし、そのローブに身を包んだ男の顔は見えなかった。
しばらくして、アヴァンは気付いた……、自分の体が石化してしまっていることに。
手も、足も、顔の一部でさえも、一ミリも動かせない。
体は冷え切って、氷の中に閉じ込められたような感覚だ。
その目に映るのは、石になったままの仲間たちと母、そして、愛する妹エイシャの姿だ。
泣きたくても涙さえ出ないアヴァンは、心の中で嗚咽し、今までの自分を恥じた。
せめて、まともに生活をしていれば、魔力を鍛えていれば、家に引きこもるなんて馬鹿なことをしていなければ……。
後悔の念が、大きな波となってアヴァンを襲った。
その時だった。
『いいねぇ……。不幸は大好物だ』
どこからともなく、声が聞こえてくる。
『俺様なら、お前の体の石化を解けるぜ?』
聞いたことのない声は、アヴァンの心の中に響いていた。
アヴァンは、動かすことのできない瞳で、声の主を必死で探した。
しかし、視界の中で動いているものは何もない。
『よぉ、アヴァン。俺様はエビル。お前の左手に閉じ込められている悪魔さ』
その言葉に、アヴァンは左手を見た。
袋が被せられたままの左手は、その全容を見ることはできないが、今までにはない、微かな青い光が灯っているではないか。
闇の精霊に呪いをかけられたあの日から、全く感覚のないその左の鍵手だったが、その時はなぜか温かく感じた。
『俺様は長年、闇の精霊に捕らえられていた。そして、やっと自由になれたかと思えば、お前の手に宿ってた。最初はお前の体を乗っ取ってやろうかと思ったが……。どっこい、お前は魔族ときた。今では悪魔の俺様も、昔は普通の魔族だった。同じような魂が一つの体に入ることは不可能だ。で、この有様よ……。それにお前ときたら、自分の中にある魔力をちっとも高めねぇで、のんびり過ごしやがって。俺様が話しかけても全く聞こえてやしねぇ……。あれから五十年、待った甲斐があったってもんよ。やっと話ができる日がきたんだ、こんなに嬉しいことはないぜ』
エビルは、意地の悪そうな声でそう言って、ケタケタと笑った。
訳が分からないアヴァンは、文字通り固まったまま何もできない。
『おい、黙ってねぇで何とか言ったらどうだ? 魂は盗られても心は残っているはずだ。何か言えよ? 念じろ。心の声を発するんだ』
エビルの言葉にアヴァンは余計に混乱したが、声を出そうと試みる。
「う……。あ……」
肉声ではなく、自身の心の中に響く内なる声。
『そうだ、いい感じだ。もう少し強く念じろ。思っていること、考えていることを一つにするんだ』
「な、あ……。な……。なに、何が……。何が起こった……?」
『よしよし。何が起きたかわかってねぇんだな? 簡単なこった。お前も、周りの連中もみんな、魂を抜き取られたのさ』
「た、魂……?」
『あぁそうだ、魂だ。魂ってのは、心臓とも、心とも違う。まぁ、心臓と心を繋ぐもんだって考えた方がわかりやすいだろうな。殊更、魔力を使うもんにとって、魂は命だ。魂がなけりゃ、魔力は使えねぇ。それにだ、お前たちのような魔獣や魔界の生き物の血を引く魔族の者たちは、魂がなければ今みたいに石になっちまうのさ』
「じゃあ、おいらの、おいらの魂は……、どこに……?」
『さっき見たろ? 派手なローブを着た奴だ。あんな黄色の阿呆みたいなローブ、そうそう見るもんじゃねぇぜ? 間違いなく、あいつの仕業だ』
「あいつは、何もん、なんだべ?」
『わからねぇが、妙な術を使っていたな。相当腕の立つ魔法使いか、あるいは……。何にせよ、お前の魂はここにはない。魂がなけりゃ、お前は石化したままだ。そこで俺様の出番よ』
「……何をする気だが?」
『俺様の魂を、お前に貸してやるのさ』
「おめぇさの、魂を……? そんな事、可能だべや?」
『あぁ、できるさ、できるとも。簡単なことだ! 俺様もお前も魔族だ。どっちの魂だろうが、魔族の魂には変わりねぇ。俺様の魂をお前の体に入れ込めば、石化は解け、体を動かすことができる。即ち! あの黄色野郎を追うことができる……。魂さえ取り戻せば石化は解ける。お前の妹、エイシャを救うことができるんだぜ?』
エビルの言葉に、アヴァンの中の何かが揺れ動いた。
思い返せば今までずっと、左の鍵手のために家に引きこもり、家族の世話になりっぱなしだった。
エイシャがいてくれなければ、今日まで生きていられたかどうかすら怪しい……。
恩を感じながらも、返すことなど一生できないと、昨日までは思っていた。
しかし、この状況を前にして、アヴァンは決意した。
「わかった。おめぇさの魂、おいらに貸してくれ」
アヴァンの言葉に、エビルはにやりと笑う。
『いいぜぇ。ただ、一つだけ、言っておかなきゃならねぇことがある……。俺様の魂がお前の体に入ったとして、お前の体がお前の心の通りに動くとは限らねえ』
「……なんだ?どういうこった?」
『まぁ簡単に言えば、お前の体を、俺様が乗っ取っちまうかも知れねぇってこった』
エビルの言葉に、アヴァンは戸惑う。
いくら体が動くようになったとしても、思い通りに動かずに、悪魔に乗っ取られた状態になってしまえば元も子もない。
……謎の男を追うことなどできない。
エビルのほくそ笑むような思いが、アヴァンにも伝わる。
しかし、他に選択肢がないということをアヴァンは理解していた。
そして、アヴァンの決意は、今まで生きてきた中で感じたどんな思いよりも強かった。
「わかった。けどおいらは、ぜってぇおめぇさに乗っ取られたりしねぇ。おめぇさの魂、おいらが使ってやる」
アヴァンの言葉に、その決意の強さに、たじろいだのはエビルだった。
『そ、そうかよ……。じゃあ、お前の体に、俺様の魂を入れるぜ……。ほ、本当にいいんだろうなっ!?』
焦るエビルの思いが、アヴァンに伝わる。
エビル自身にも、どうなるかわからないのが事実だった。
一か八かの賭けだった。
だが、それが更にアヴァンの心を震わせた。
生来持ち合わせているアヴァンの、魔族の本能とでもいうべき好奇心が、五十年の歳月を経て蘇っていたのだ。
「あぁ構わねぇ。早くしろっ!」
アヴァンの怒鳴り声に、エビルはおののき、従った。
エビルは、アヴァンのわからない言葉をぶつぶつと呟き始める。
すると、アヴァンの隠れた左の鍵手から青い焔が立ち上り始めた。
青い焔は、長年その手を覆い隠していた袋を焼き消して、アヴァンの石化した全身を包み込んでいく。
轟々と燃え上がる青い焔は、徐々にその威力を一点に絞り始める。
それは、アヴァンの心臓だ。
既にそこには、魂を取り除かれた後に残るという、ハート形の窪みができている。
青い焔はそのハート形の窪みへ集まり、具現化した魂、ハーツとなった。
薄紅色の中に黒い荊の模様が入ったそれは、紛れもないエビルの、悪魔の魂だ。
アヴァンの心臓と一体化したエビルの魂は、ドクンドクンと脈を打ち、アヴァンの体に色を取り戻していく。
そして数分後、アヴァンの体の石化は解けた。
心臓の周りの皮膚に少しばかりのひび割れを残して、アヴァンは体の自由を取り戻した。
アヴァンは思わず前のめりに倒れ、膝をつき、乱れた呼吸を整えようと深く息を吸った。
そして、今まで一度も感じたことなどなかった、自分の中にあるエビルの魂の重さを感じて、自分に起こったことの全てを理解した。
エビルはというと……。
『くっそぉっ! なんだってまた、こんな事になっちまったんだっ!? 乗っ取れるはずじゃなかったのかっ!? 一体全体、どうなってんだ、畜生っ!!』
心の中で、言葉にならない叫び声を上げ続けている。
どうやら、アヴァンの体はエビルに支配されることはなさそうだ。
「わりぃな、エビル。おめぇさの魂、しばらくおいらに貸してくれ」
悪びれることなくそう言ったアヴァンに対し、エビルは悪態をつく他は何もできなかった。
その後アヴァンは、石化を免れた者はいないかと、村中をくまなく探し回った。
見つかったのは、生まれて間もない赤子とその母親、千歳ほどの老夫婦に、小さな男の子が一人の計五人のみだった。
いずれも家の床下や屋根裏に隠れていて助かったようだ。
アヴァンが期待したような、戦力になりそうな者は一人もいなかった。
アヴァンは彼らと協力して、村中の石化した魔族のみんなを、各々の家へと運んだ。
そして、黄色のローブの謎の男を目撃したという男の子に話を聞いた。
男の子の話によると、男は間違いなく魔法使いだということだ。
奇妙な形のロッドを持ち、聞いたことのない呪文を唱え、村のみんなの魂を持ち去った。
実体化した魂は、アヴァンの胸にあるものと同じように、薄紅色のハート形をしていて、光り輝いていたとのことだった。
アヴァンは、黄色のローブの謎の男を追うべく、旅に出る決意をした。
村に残る四人は、アヴァンに全てを託し、村を守ると言ってくれた。
石化した家族を、エイシャを前にして、アヴァンは誓った。
必ず魂を取り戻し、村を救ってみせると……。
旅立つアヴァンに、老夫婦はあることを伝えた。
「謎の男の行方を追うのは至難の業だ。せめて、西の森の魔女に相談に行きなさい。彼女は、魔族と魔法使いとのハーフだ。それも、このオーレイ村の出身だ。百年ほど前に高名な魔女の弟子になって、今は独り立ちしている。きっと力になってくれる」
その言葉を頼りに、アヴァンは西の森へと向かった。
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