第2話 落ちこぼれ講師と新入学希望者

 ある日ルーチェはピエルに呼び出された。彼は生徒からの信頼も厚い人気講師で学舎の重臣、そしてルーチェから彼女のプライドと自信を奪った張本人でもあった。

「今回の客は個別指導を検討している。集団に入れるつもりだけど、個別指導の料金体系を説明してくれ」

 ピエルは来客用の部屋の前でルーチェに言い、さっさと中に入ってしまう。ルーチェは彼と行動を共にするのが大の苦手だったが、仕方なしに後に続く。

 学舎には多くの人が学びに来るがその大半は子どもか老人である。しかし中で彼女を待っていたのは20代後半くらいの、黒髪の精悍な顔立ちの青年だった。ピエルはもみ手をしながら言った。

「アヴィス様。彼女が個別指導を担当しておりますルーチェです。彼女も同席させて頂きます」

 アヴィスはルーチェを見て軽く会釈をした。ルーチェも慌てて会釈をする。今までたくさんの客を見てきたがこのような礼儀正しい客は少なかったので、彼女はアヴィスに好印象を抱いた。

 入学に関しての説明はピエルが行い、個別指導の説明も結局ピエルが数分で済ませた。ルーチェはただ座っているだけであった。

「説明は以上です。アヴィス様は入学試験を高得点で合格されました。個別指導ではなく集団授業で学ばれるべきです。元々本校は集団授業がメイン。個別指導はオマケです。集団授業に入ることのできる実力を持つアヴィス様には集団授業がふさわしい」

 ピエルに対しアヴィスが放った一言は衝撃的だった。


「いや。わたしは個別指導を希望する。講師はルーチェさんと言ったか、この人にお願いしたいと思う」

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