第1話 退職に至る経緯。

 この世界には魔法学校と魔術学舎という2種類の教育機関がある。魔法学校はその名の通り「学校」制度で、魔法使いの才能を持つ子どもたちが魔法を学ぶ場所である。魔術学舎は様々な理由で魔法学校に通えない子どもたちや、魔法学校と並行して通う子ども、これまた様々な理由で学べなかった大人たちが魔法を学ぶ場所だ。

 ルーチェは魔術学舎の講師として働いている。たくさんの生徒を教える集団授業に1人か2人の生徒に対し1人の講師がつく個別指導、どちらも担当していた。年齢は25歳。

 彼女は自分に自信を無くしてしまっていた。何をしても失敗ばかり。折角先回りをしたつもりでも、いつも何かミスをし上司に怒られていた。よかれと思ったこともすべて裏目に出て挙句の果てには、講師だけでなく魔法学校に通う学生アルバイトにまで馬鹿にされる始末。そんな状況の最中。仕事の遅さを理由に学生アルバイトに怒りを露わにされた。その時これまで彼女が気持ちでなんとか保ってきたプライドや、自信といったものは、崩れ去った。その時今までの嫌な思い出が蘇ってきた。

 1つ目は魔法講師に評価基準が設けられた時だった。彼女は魔法学校の教師免許も取得していたが、魔術学舎の講師の道を選んだ。それは評価基準を持たず自由な授業を展開できるのが魔術学舎だったから。授業のうまさを評価されないのであれば、万人受けしない形でも大丈夫だと思ったからだった。しかし彼女の気持ちは、踏みにじられた。

 魔術学舎講師コンテスト。世界に何百もある魔術学舎の講師全員が授業のうまさの頂点を競うコンテスト。参加者の授業は100点満点で点数化される。ルーチェはこれに参加させられひどい点数を取った。授業がうまいとはこれっぽっちも思っていなかった。しかしこの一件で彼女の授業に対する自信はほとんど無くなってしまった。

 2つ目はエリート講師ピエルの一言だった。

「君の授業はひどすぎる。言葉も出ないよ」

「君は他の会社じゃあ、お茶くみしかできないよ」

 1つはルーチェの授業を見ての感想、そしてもう1つはルーチェが大きな失敗をした時の言葉だった。

 他にもいくつもそういったことがあったのだが、彼女はどこに転職したって無駄だからと割り切り、ただ流れる日々を過ごしてきた。

 しかし今日。誰にも頼られず、馬鹿にされるだけの人生は嫌だ、と彼女の心の中にしまっていた想いが胸を飛び出した。

「どこに行っても一緒かもしれないけれど、ここにいたら私は本当にダメになってしまう。まだ自分の意思が残っているうちに行動しよう」

 そう思い、退職を願い出たのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る