第3話 入学手続き
それから数十分間ピエルとアヴィスの押し問答が続いた。笑顔がシールのように貼りついたピエルから笑顔を引きはがした客をルーチェは初めて見た。やがてピエルが折れて言った。
「仰ることはよくわかりました。それでは個別指導ルーチェご指名でご入学ということで」
「ではわたしはルーチェ先生と話がしたいので、ピエル先生、悪いが席を外してもらえないだろうか。わたしが入学することは決定事項だ。金はちゃんと払う」
その言葉に驚きを隠せないピエル。しかしすぐに営業スマイルを浮かべると、お辞儀をして出ていった。退出際、彼の目が笑っていなかったことをルーチェは見逃さなかった。
ピエルが退出するとアヴィスは、天井を見上げため息をついた。そして緊張した面持ちのままのルーチェに優しく言った。
「アンタも無理しなくていい、難しいだろうがリラックスして話を進めて欲しい」
その言葉を聞いただけで彼女は泣きそうになった。ピエルと一緒にいたプレッシャーで彼女はひどく疲れていた。彼女は伸ばしていた背筋を丸めると小声で言った。
「あの。本当に私なんかでいいんですか? アヴィスさんは入学試験を200点満点中198点でクリアしたんですよね? 集団授業を受講された方がたくさんの魔法を習得できると思うんですけど……」
するとアヴィスはルーチェの顔を覗き込むように見る。
「入学試験はあくまで魔力数値や身体能力の測定、魔法を覚えるための記憶力を測るに過ぎない。それは魔法が使えるかどうかとは全く別の問題だ」
魔法の知識を持たない人間が入学を希望した場合、呪文を覚えるために必要な記憶力と、その人個人が持つ魔力や身体能力のみをテストする決まりとなっている。魔力をたくさん持っていたとしても、実際に魔法が使えるとは限らない。アヴィスは肩をすくめると諭すように言った。
「わたしにはアンタの方が、うまく教えられるように見えた。だからアンタに指導を頼んだ。自信を持ってほしい」
その言葉でまたルーチェは泣きそうになったが、笑顔を作って入学手続きに入った。入学手続きは数分で完了し、アヴィスは生徒となった。
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