第15話 逃走と闘争

 銀の殺戮者、白翼の虐殺者、白銀の竜姫士、銀髪の惨殺天使。

 町の人たちが付けた私の二つ名は色々あるけれど、そんな二つ名を付けた人々の中をイオちゃんにお姫様抱っこされて移動する恥ずかしさ。

 もう二度と経験したくない。恥ずか死にますわ。

 明日には新たな二つ名がついてそう。というか、皆面白がってませんかね?


 宿でゼロを回収して無人島の隠れ家に飛び、予備機に乗り換える。

 脚の自由が利かなくても飛べるように改造してあるこの予備機なら、今までとほぼ変わらない。練習もしていたし、大丈夫でしょう。

 さて、どうするか。

 地図を広げて思案する。

 一口に外国といっても、王国は島国だから海上を飛んでいく必要がある。長時間のフライトが予想される以上、遠回りはしたくない。


 やっぱり、サッガン山脈を越える航路が妥当だと思う。もしも原作ストーリーから逃れられずに越えられなかったとしても、この隠れ家に逃げ帰ってくる必要があるから知っている航路の方がいい。

 加えて、サッガン山脈の向こうはドラク家やドライガー家と因縁のある貴族の領地だ。王国の成立前はサッガン山脈の所属を巡って幾度となく争った歴史がある。

 つまり、サッガン山脈を越えればドラク家は私を不用意に追えなくなる。

 さらに、サッガン山脈の向こうにある海は私の目的地である外国との係争地にもなっている群島があり、小競り合いが絶えない場所だ。

 私を追って編隊を組んだ竜騎士が群島に向かうのを、王家はよしとしないだろう。私ごときを殺すために外国と戦端を開きかねない行為は見過ごせまい。

 決まりですね。


「絶対、死なない」


 地図を丸めて、私はロア・アウルを背負い、ゼロに浮遊魔法を作用させて離陸する。

 時刻はもう真夜中といっていい。外は真っ暗だ。

 立ち塞がるなら、ドラク家の竜騎士を全滅させても構わない。原作ゲームではエメデン枢機卿側のドライガー家に連なっているんですし、撃墜しておけば後々ナッグ・シャントたちが楽になるでしょう。

 サッガン山脈に向けて、ゼロを飛ばす。

 さざ波立つ海上を眼下に望む。空はいくつか雲が出ているけれど、風は強くない。瞬く星は数え切れない。

 サッガン山脈周辺の天候までは分からないけれど、やる事は変わらない。

 ゼロの高度を上げて、港町の上空を高速で通り抜ける。港にいた顔見知りの漁師さん達が手を振っているのが見えた。こんな時間からお仕事ですかね。漁師さんは大変だ。


 加速し、高度を上げる。

 のんびり飛んでいた渡り鳥の上を飛びぬけて、内陸へ。

 敵影はない。

 ドラク家も、私が彼らの所領の上を悠々夜間フライト中とは考えまい。

 けれど、このまま何事もなく国外へ逃亡は出来ないですよねぇ。

 どうせ、原作ストーリーへの収束が発生するんでしょうし、どこかで討伐隊と接触するはず。

 警戒しながら飛んでいると、サッガン山脈の上空に複数の光が見えた。

 ドラク家の竜騎士隊が哨戒しているのかと思ったけれど、様子がおかしい。山脈のふもとに広がる森の中にも明かりが見える。

 ……傭兵団ですね。分かります。


 ゼロをホバリング状態にして、ロア・アウルのスコープで覗く。

 麓にたむろしているのは亜竜乗りを保有する傭兵団で間違いない。傭兵団のキャンプにしては不相応に大きなテントが複数あるのは、亜竜ことワイバーンを休ませるためのテントですかね。

 タムイズ兄様と行動していた四騎の亜竜乗りが所属する傭兵団かな。

 サッガン山脈上空の光にスコープを向ける。やはり、ワイバーンだ。

 この時間にワイバーンで周辺を警戒する傭兵団がいるはずもない。ここは戦場ではありませんし。

 あれは、私の討伐隊の一部とみていいね。

 私の首に賞金でもかけられたんですか?

 やり過ごしたいけど、航路を変えると町の上空を通る事になったり、ジェット気流に逆らって飛ぶことになる。

 町には私を探す竜騎士隊がいるはずだから、亜竜乗りを相手にする方がまだ安全。

 私はロア・アウルを構えて、覚悟を決めた。


 ゼロを加速させつつ、上昇させていく。交戦せずに済むならそれに越したことはないけど、まぁ、無理でしょ。

 ゼロの上に腹ばいになり、いつでも狙撃できるように銃口をワイバーンに向け続ける。

 私に気付いたワイバーン乗りたちが二騎一組で動き始めた。

 傭兵だけあって慣れてますね。

 二騎が高度を合わせ、交差するように蛇行して飛んでくる。サッチ・ウィーブと呼ばれる戦術で、地球では日本軍のゼロ戦を相手にするためにアメリカ軍が考え出した戦術だ。

 私が乗るゼロと比較するとワイバーンは旋回性能に劣る。まともにドッグファイトが成立するような性能差ではないから、戦術でカバーするのは正しい判断。

 そんな判断が下せるという事は、私の事を知っている証拠に他ならない。

 つまり、敵ですね。


「落とす」


 ゼロを加速させる。

 編隊を組む亜竜乗りに対して有効的な戦術は高度差を利用する事。ワイバーンは背面飛行を嫌い、旋回性能も低いため、インメルマンターンやスプリットSといった縦方向の切り返しに対応できない。

 しかし、今は地上に傭兵団の部隊がいる。おそらく、対空用の魔法を使えるはず。高高度への攻撃は出来ないけれど、亜竜乗りも地上部隊が支援できる高度を維持して接敵したいはず。

 そんなセオリーは向こうの方がよく理解しているでしょうけど。

 向こうの読みとしては、私が高度を上げて急降下からの一撃離脱戦法を取るから高度上昇に追随しての機関銃掃射で撃墜かな。ワイバーンの最高速度で飛んできているのも上昇に備えてでしょう。


 だから、裏を掻く。

 高速で飛行するゼロの高度をあえてワイバーンに合わせる。

 まさか私が正面から突っ込むとは考えていなかったのか、亜竜乗りたちは速度調整が間に合っていない。

 機関銃での掃射が正面から飛んでくるけれど、ゼロにうつぶせになっている私にまともにあたるはずがない。数発の銃弾が障壁魔法に当たって火花を散らす。

 蛇行して飛ぶワイバーン二騎の交差点にタイミングを合わせ、ゼロでワイバーンの下を潜り抜け様、一瞬だけ浮遊魔法を発動する。

 すれ違った直後、ワイバーン二騎が錐もみ回転しながら森へと墜落して行った。

 ドラゴンで同じことをしようとしたら共倒れだけど、ゼロなら相手の翼だけを浮遊魔法で攻撃できる。亜竜乗りたちには予想外の戦法でしょう。


 さて、残り二騎。

 先行するワイバーンたちの末路を見た亜竜乗り二人が急旋回しつつ、私へ機関銃を向ける。

 位置取り的に十字射撃の形になっているけれど、致命的に速度が遅い。そもそも、編隊飛行が乱れている。

 左側にいた亜竜乗りの背後に付けるようにゼロを急旋回させる。左翼を地上に向けて横倒しになりながらの急旋回。亜竜乗りたちが機体全体を晒すゼロに機関銃で銃弾を浴びせてくるけれど、ことごとくを障壁魔法で弾き飛ばす。

 地上から打ち上げられたいくつもの岩の槍は直撃すれば障壁魔法に穴を開けるけれど、ゼロの側面しか見えていないためまるで当たらない。夜間ということもあり、命中精度は極端に低くなっているみたいだ。


 あっさりと亜竜乗りの後ろに回り込み、ロア・アウルの引き金を引く。

 亜竜乗りは往生際悪く振り子のように左右へワイバーンを振れさせる。実際、私が二発外したのだから悪足掻きなりの効果はあった。

 三発目で亜竜乗りが張っていた障壁を吹き飛ばす。

 一発まともに受けただけで障壁が弾けるとは思ってもいなかったか、怯えたような顔で振り返る亜竜乗りに同情しないでもないけれど、最初に攻撃したのはそちらですよ?

 ロア・アウルに魔力を流し込み銃口に魔法陣を展開、ワイバーンの軌道を予測して引き金を引く。

 撃ち出された銃弾はワイバーンの右翼をかすめた瞬間に炸裂し、爆炎で翼膜を焼き焦がす。

 バランスを崩したワイバーンが墜落する。その上空を飛び越えて、ゼロの機首を持ち上げ空中で縦方向に一回転。


 後ろに来ているのには気付いてましたよ?

 最後の亜竜乗りが必死の形相で機関銃を乱射してくる。亜竜乗りの癖に全員が機関銃装備って、地上部隊の援護に頼りすぎですね。

 狙撃銃に分類されるロア・アウルの射程距離を生かし、亜竜乗りのアウトレンジから狙撃する。

 ワイバーンの尻尾がはじけ飛び、怯えたワイバーンが騎手の言うことも聞かずに逃げていく。

 そりゃあ、仲間のワイバーン三匹が撃ち殺されてますからね。一回でも交戦したんだから、騎手との信頼関係はそれなりにあったんでしょうけど。

 ワイバーンを全滅させた以上、この場に用はない。地上部隊ではゼロに追いつけるはずもない。


 ゼロを急旋回させて、空域からの離脱を計ろうとした時、地上部隊から大きな影が上昇して来るのに気が付いた。

 ワイバーンの大きさではない。明らかに竜だ。

 夜明けも近い、一番暗い時間。竜の体色も分からない闇の中から、念話が飛んできた。


「アウルのせいだ」


 ヒルミア?

 だとすれば、タムイズ兄様が乗ってる?

 なんでこんなところに。

 ゼロで空を旋回しつつ、戦闘に備えてロア・アウルの弾倉を入れ替える。


「アウルのせいだ。ドラク夫妻が処断されたのはアウルのせいなのだ。タムイズ、お前は悪くない」


 処断?

 何の話をしてるんだろう。

 タムイズ兄様が展開した魔法陣の明かりでちらりと見えた表情は、私を何としてでも殺すと決意しているようだった。


「タムイズよ、『竜血樹の呪玉』をアウルに使うのは当然のことだ。お前が手に入れた品の使い道はお前が決めるべきだ。……そうだ。力を示せ。アウルを、あの諸悪の根源を殺し、両親の仇を討つのだ」


 ……そういう事か。

 タムイズ兄様が『竜血樹の呪玉』を奪う事まではドライガー家の意向だけど、私に使ったのはタムイズ兄様の独断で、怒ったドライガー家にドラク夫妻が処断されちゃったらしい。

 私と違ってタムイズ兄様は両親に可愛がられてたから、自らのしでかしたことの不始末を両親が取る形になってどうしたらいいか分からなくなった。

 それで、ヒルミアは私に責任転嫁してタムイズ兄様を立ち直らせようって魂胆か。

 同情の余地が一切ないや。


 しかし、ドライガー家が『竜血樹の呪玉』を誰に対して使う気だったのかは気になるところ。

 ……考えている時間はないか。


 タムイズ兄様を煽りながら、ヒルミアが加速し始めている。

 あの様子だと、貴族家の確執も国家間の係争も無視して追いかけてきそう。

 暗くてよく見えないけれど、装備はおそらく魔法狙撃銃。私との交戦を想定しているのなら、逃げ切られないように射程の長い何らかのカスタムモデルを持ってきている可能性も高い。

 ひとまず距離を取ろう

 ゼロを操作し、旋回を止めて雲に直進する。


 撃って来ないからおかしいとは思っていたけれど、私は射程外にいたらしい。ヒルミアが追いかけてくる。

 ゼロの上に仰向けに寝転がった私はロア・アウルを構え、追いかけてくるヒルミアを狙う。

 私が狙っている事に気付いたらしく、ヒルミアが狙いを付けられないように左右に体を揺らす。

 ゼロの方が速い。これなら、無理に狙う必要もないか。

 吊り上げて撃ち落とそう。


 体を起こして、雲に突入する前に上昇態勢に入る。今回はあまり急上昇すると失敗するため浮遊魔法を使わず、風魔法で速度を調整しながら緩やかに上昇。

 雲に突入する。真っ白に染められた視界の中、風を切るゼロの翼が奏でる音が頼もしい。

 水滴で滑り落とさないよう、ロア・アウルの握りを確かめる。

 最後に見たヒルミアの姿勢と速度から雲から出た直後の位置関係を予測する。

 そろそろ、雲を出る。

 何の前触れもなく視界が一気にクリアになった。雲を出たと察した直後、横合いから飛んできたロックバレットが障壁を穿つ。

 ぞっとしてロックバレットが飛んできた方角に顔を向ける。


「……なぜ?」


 雲の上をヒルミアが飛んでいた。ゼロよりも速度に劣るはずのヒルミアが同じタイミングで雲を抜けられるはずがない。

 タムイズ兄様がこちらを狙っているのに気付き、浮遊魔法を併用してゼロを急旋回させる。

 雲へ再突入する直前にロア・アウルのスコープでヒルミアの姿を確認する。

 ヒルミア全体を魔法陣が包んでいた。強化系の魔法で無理やり最高速を引き上げたのか。

 いくら魔力量が多いドラク家の血が濃いタムイズ兄様でもあんな無茶な強化魔法を使ったら長時間持続させるのは難しいはず。

 やや肥満傾向にあるヒルミアの体力も合わせると、短期決戦がお望みらしい。どの道、速度差で私に逃げられたら戦うどころじゃないから、タムイズ兄様にとっては妥当な選択か。

 強化魔法が切れるまで雲の中に身を潜めるのも一つの手だけど、ここはドラク家の領地だから応援が来る可能性もある。夜明けが近いし、明るくなる前に勝負を付けないと。


 ――よし、決めた。

 雲から飛び出し、水平飛行に移行。

 私にワンテンポ遅れて雲を出てきたヒルミアが強化魔法の輝きに包まれたかと思うと速度を上げてきた。

 まだゼロのほうが速い。けれど、このまま追いかけっこを続ければ追いつかれそうでもある。

 背後からロックバレットがいくつも飛んでくる。流石は魔法狙撃銃、集弾性がいい。障壁魔法を何度も張り直さないといけないくらいガンガン当ててくる。

 でも、一撃で障壁魔法を抜かれないのなら、こちらに分がある。


 ゼロの機首を一気に上げる。急激な上昇で背中を引っ張られる感覚を味わいながら、地面と垂直になるまで持ち上げる。

 浮遊魔法は作用させず、風魔法の威力を落とし、ゼロを急減速させる。

 ゼロの角度を確認しつつ、ヒルミアの位置を把握。


 失速して地面に引き寄せられる直前、風魔法でゼロの両翼に当たる風の威力に差を付ける。

 滑らかに、ゼロの機首が地面を向いた。

 ストールターン、垂直上昇から失速し、回頭して垂直下降に移る空中戦闘機動。

 速度感が重要なため、並の竜騎士には不可能な動きだ。ドラゴンだって空中で失速するのは恐れを伴う。

 私に釣られて上昇していたヒルミア、その背に乗るタムイズ兄様にロア・アウルの銃口を向ける。

 スコープ越しにタムイズ兄様が驚愕し、憤怒し、魔法狙撃銃を構えるのが見える。

 流石の反応。腐っても竜騎士ですね、兄様。

 でも、判断ミスです。


 同時に引き金を引く。

 タムイズ兄様のロックバレットは私の障壁に穴をうがった。

 私のロア・アウルはタムイズ兄様の障壁を粉砕した。

 威力が違うんですよ。

 障壁を張り直す時間は与えない!


「ふざけるな、この面汚しがあぁぁっ!」


 タムイズ兄様が叫ぶ。

 ロア・アウルの銃口が火を噴き、タムイズ兄様の右肩を吹き飛ばす。

 ヒルミアとゼロがすれ違う。高度差が入れ替わり、私はゼロの上に仰向けになってロア・アウルを夜空に向けた。

 失速したヒルミアが羽ばたいて体勢を立て直そうとしている。

 ロア・アウルに魔力を流し込み、銃口に魔法陣を展開する。

 ヒルミアが私を見下ろして吠えた。


「この疫病神め!」


 逆恨みばっかり。

 銃口に展開していた魔法陣を貫いた銃弾が、体勢の整わないただの的と化したヒルミアの胴体へと吸い込まれ、爆炎を撒き散らす。

 白み始めた空から炎に包まれたヒルミアとタムイズ兄様が地面へと落ちていく。

 森に墜落したタムイズ兄様とヒルミアから視線をそらして、私はサッガン山脈を見る。

 障害は排除した。

 後は逃げるだけ。


 ゼロを旋回させて、昇る朝日を無視してサッガン山脈の上空へ機首を向けようとした時、空が赤く染まった。

 朝焼けの色じゃない。

 まさかと思い、サッガン峠の向こうへ目を向ける。

 天と地を結ぶ赤い光の柱が見えた。

 原作ゲーム『ドラゴンズハウル』のオープニングムービーそのままの景色だった。

 原作ストーリーが始まった証拠だ。

 早く逃げないと。

 突き動かされるようにゼロを加速させようとした直後、上空から殴りつけられたような下降気流に掴まった。


「――っ?」


 がくんと一気に高度が下がる。

 ヤバい。ヤバい。ヤバい。

 ストーリー収束に掴まった。

 高度が急速に下がっているのを肌で感じる。

 ゼロの機首を持ち上げようとしても言う事を聞かない。浮遊魔法を作用させて姿勢が安定したかに見えた時、右翼が半ばから吹き飛んだ。

 高度が落ちたせいで地上にいた傭兵団の射程に入ってた!?

 重力に引き寄せられ、ゼロが緩やかに降下し始める。

 せっかく勝ったのに。逃げ切れるはずだったのに!

 こんなのってあんまりだ。

 死にたくない。死にたくない。


 サッガン山脈をギリギリの高度で越えるも、高度は上がらない。浮遊魔法も風魔法も、降下の速度を落とす以上の効果を発揮しない。

 せめてもう少し翼が残っていたら、揚力を確保できたのに。

 地上との距離が縮まる。せめて、この角度で突っ込んでも無事に済む場所を探さないと墜落死する!


 必死に視線を巡らせ、川を見つける。

 深さは分からない。

 でも、この速度で森に突っ込むよりはまし。

 覚悟を決めて、ゼロを傾ける。

 右翼が半分吹き飛んでいるせいでバランスが簡単に崩れる。すぐに錐もみして落ちようとするゼロを叱りつけるように強引に操作する。

 川との距離が急速に縮まる。

 もう、なんでこんな目に遭わなきゃならないんですかねぇ!?

 ゼロが着水し、猛烈な水飛沫を上げながら川の水面を割る。川底にゼロの底面が接触してがりがりと音を立てた。

 怖い、怖い、死ぬ、死ぬ、死にたくない。

 恐怖が極まると逆に瞼を閉じることもできないんだといま知った。一生知りたくなかった!

 川の流れに逆らって進んでいたゼロがようやく停止する。

 私はびしょ濡れの身体で生きていることを実感し、ゼロの上に突っ伏した。


「……最悪」


 これはもう、隠れ家にとんぼ返りですね。

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