福沢諭吉を頭からおいしく食べる方法
ちびまるフォイ
お金人間の舌は騙されない
「お気の毒ですが、当銀行では私のような
超絶優秀な人間だけを採用しているので、
あなたのようなごく普通のパンピーはお引取りください」
「ちくしょおお!!」
面接で不合格を宣告されて怒りの余り財布を叩きつけた。
しかも運悪く、財布の小銭が地面で跳ね上がり、口の中にイートイン。
「んがぐっ……!」
1円玉をごくんと飲み込むと、不思議な満足感があった。
「お金食べちゃったけど、大丈夫かな……」
空港の金属探知機で胃NGにならないか心配になり、
翌日病院へ行くとなんら問題ないと診断された。
「安心しました。どうしようかと思いました」
「いえ、それがそうでもないんですよ」
「え」
「お金を飲み込んだことで、あなたの脳内でなんやかんやあり、
どうやらお金しか食べられない体になったようです」
「またまたぁ」
「じゃあ、これちょっと食べてみてください」
医者の差し出した病院食を口に運んでみた。
強烈な鉄臭さで飲むことすらできない。
「げほげほ! な、なんですかこれ!?」
「じゃあ次はこれを」
医者は5円玉を差し出した。
5円玉を舐めると、甘い味が口いっぱいに広がる。
「……その顔だと、どうやらちゃんと味がしたようですね」
「先生! これどうやったら治るんですか!?」
「水は飲めますし、飲み物系でなら栄養補給はできますから」
「治療諦めんなよ!」
こんな珍しい症状は他に類を見ないということで、
医者は申し訳程度に痔の薬だけ処方した。
「はぁ、これからどうしよう」
小銭をガジガジと噛んでいると、親子連れが通りかかった。
「ママー、あのおじさん、お金食べてるよ」
「真似しちゃダメ!」
「うう……好きでこんな体になったわけじゃないのに……」
普通の食事はとても受け付けない。
かといって、お腹が減るのは止められない。
ゼリー飲料で栄養はとっても、満腹感はまるで得られない。
「ダメだ! 我慢できない!」
我慢ができなくなり財布の千円札を抜き取ると、
むしゃむしゃと口の中に放り込んで、何度も噛んだ。
口の中にはなんとも言えない味が広がり、
空腹もあいまってますます美味しく感じてしまう。
「う、うまぁ……!!」
こうなってはもう止められない。
財布に入っていたお札を片っ端から口に運んでしまう。
全部平らげると、自分が無一文になったことに気づいた。
「やばい……食べ過ぎた。これじゃ帰りの電車賃もないぞ」
近くのコンビニに寄り、ATMでお金をおろすしかない。
けれど、おろしたてのお金を見た瞬間にお腹が減ってしまう。
「い、1枚だけなら……」
ピン札の千円を1枚だけ口に運んだ。
さっき食べた千円札とは比べ物にならないほど鮮明な味が広がる。
「折り目がなく、キレイなほど美味しいのか!!」
それに気づいたら手元にあるお札がごちそうに見えてしょうがない。
コンビニで人目もはばからずお金を食べきってしまった。
ふたたび無一文へ戻ってしまう。
「なんて恐ろしい病気だ……お札はお腹にたまらないし、
美味しいからいくらでも食べてしまう。そのうえ金はめっちゃかかる……」
自分なりの対抗策として、5円チョコならいけるのか、
ボードゲーム用のおもちゃ紙幣ならいけるのか、現金引換券ならいけるのか。
などなど、あらゆる代替案を試しては砕け散った。
「ダメだ……少しでもお金と違うだけで、受け付けない……」
お札をちびちび、ちぎっては口に運んでだましだまし食べていた。
このままお金が尽きてしまえばどうなるのか。
空腹に耐えかね、レジをこじ開けお金を食い始めるかも知れない。
それで逮捕されたら刑務所じゃ確実に餓死してしまう。
いくつものデッドエンドが浮かんでは消え、浮かんでは消え……。
「しまった! 食いすぎてしまった!!」
考えふけるのに使うエネルギー摂取のためお金を食いすぎてしまった。
残ったのは空っぽの通帳と、空っぽの胃。
やはり強盗しか無いのか。
「はぁ……この先どうしよう……」
追い詰められた末に、ついに俺は決断し、銀行へと向かう。
その後、銀行で採用が決まると、思う存分に食事を満喫できた。
「いやぁ、あの新入社員ったらものすごく優秀で驚いたよ。
どんなに精巧な偽札でも1回食べれば、確実に当てられるんだぜ!」
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