第153話

校舎を飛び出してから、どれくらい時間が経っただろう。


先程まで真っ直ぐに街を照らしていた白い陽光は、いつの間にか輪郭があやふやになり、街をそっと包み込むような茜色に変わっている。

青い空にはほんのりとその茜色が混じり、夕刻が近づいているということだけが理解できた。


スマホを見れば詳しい時刻を確認できるだろう。けれど、今の俺にそんな余裕はない。


俺は理由も話さずに忽然と姿を消した白月を捜すため、ただひたすらに、がむしゃらに街を駆けていた。「風になっている」といえば聞こえはいいかもしれないが、実際のところは全身から汗を垂れ流し、聞くに耐えない苦しい呼吸を繰り返し行なっているだけ。


時折すれ違う通行人が俺に奇異の目を向けてくるが、今はそんなことを気にしている場合でもない。



正直なところ、白月がいなくなったと葉原から聞かされた時点で、白月が居ると思わしき場所はいくつか思い当たった。


しかし、それはあくまで思い当たっただけ。確証なんてどこにも無い。

だから俺は、その思い当たった場所を1つ1つ順番に周って行くことに決めた。


***


まず最初に俺が訪れたのは、白月蒼子の自宅だった。


いくつか思い当たる候補の中で、真っ先に浮かんだのがこの場所だった。

まぁ、当然といえば当然かもしれない。


しかし、俺にとってこの場所は、好んで訪れたい場所ではなかった。ここには、あまり思い出したくない苦い思い出がある。


そんなことを考えながら、俺は精巧に作られた門の前に立って乱れた息を整える。

そして二、三度深呼吸を繰り返し、「よし」と小さく呟くと、俺は門のすぐ隣に設置されてあるインターホンを強く押した。


するとしばらくして、奥に見える玄関の扉がゆっくりと開き、中から見覚えのある1人の男性が出てきた。



「君は……」


そう言って彼はほんの一瞬驚いたように目を見開くと、すぐに表情を戻し、尋ねてくる。



「一体、何の用かな」


俺はそんな彼に一度深く頭を下げると、まるで不審な者を見るかのように訝しむ顔に目を向け、単刀直入に話を始めた。

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