第137話

そんな白月に俺は続けて尋ねる。



「恨み言って……具体的にはどんな?」


「『文化祭楽しそうで何よりだな』とか『自分が犯した罪も忘れてヘラヘラしやがって』とか。……まぁ、そんな感じよ」


「……そうか」


白月の話ぶりからは、正直それが本当なのかどうかハッキリとは読み取れない。


仮にその話が本当だとして、他に何か隠してるんじゃないか?

俺や葉原に知られないよう、必死に誤魔化して欺こうとしているんじゃないか?


そんな考えばかりが頭を過る。



白月にとって、人を欺くなんてことは楽勝だろう。


だってこいつは、今まで親にも教師にも、そして自分の周りを取り囲む『凡人』たちにも、自分が抱える悩みを、弱みを隠して生き続けてきた。決して誰にも悟られることなく、過ごしてきたんだ。



俺は白月がそういう奴だってことをよく知っているからこそ、こいつに言わなきゃならない。


白月がもう二度と、1人で抱え込まなくても済むようにするために——。



「……なぁ、白月」


「なに?」


今度はしっかりと疑問を抱いた口調で訊き返す。



「俺には人の考えを読む才能も、相手から話を上手く引き出す才能もない。だから、お前が今何を考えてるかなんて分かんねぇ」


「皇くん……?」


「俺はさ、言ってくれなきゃ分からねぇんだよ。分からないものはどうしようもない。手の出しようがない」


俺は続ける。



「だから白月。……悩んでいるなら、迷っているなら、はっきりと言ってくれ。そうすれば俺は、お前と共に悩んで、迷って、解決の手助けをすることができる」


白月が今、一体何に悩み、何を考えているのか知りたい。けれど、俺は白月の許可なく “それ” に触れることは出来ない。

白月が自分の意思で、それを口にしなければ、俺は何もすることが出来ないのだ。


一言。

たった一言「助けて」とさえ言ってくれれば、俺は今すぐにでも、こいつに手を差し伸べることが出来るのに……。



そんなことを考えていると、白月は穏やかな笑みを浮かべ、夜空を内包したような美しい瞳をスッとこちらに向けてきた。



「大丈夫よ。何も悩んでなんていないし、隠し事なんてしてないわ。……全く、皇くんは本当に心配性なのね」


そう言って白月は、クスクスと小さな笑い声を上げる。



「……そうか。なら、いいんだけどよ」


楽しそうに笑う白月にそう言葉を返しながら、俺は心の中でつぶやく。




お前のその笑顔は、本物なのか? 心からの感情なのか? 本当に、信じてもいいのか?


……俺にはさ、お前の心が分からねぇんだよ。



—— なぁ、白月……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る