第138話
白月と話をしたすぐ後、俺はチャットで輝彦たちに呼び出され、11時までには戻ることを白月に告げて、そのまま教室を後にした。
文化祭実行委員会の連中が、駅前や商店街など校外でも熱を入れて宣伝活動を行なっているせいか、文化祭最終日となる今日はどこを歩いても人、人、人。
こんな状況で1つ1つの店をゆっくり見て周るのは、少し難しいだろうな。
そんなことを考えながら、俺は人と人の間をすり抜けるようにしながら前へと進んでいく。
「おーい、晴人ぉー! 誠ぉー!」
名前を呼ばれてふと顔を上げると、5メートルほど先にいる輝彦が手を高く上げ、後方の俺たちに向かって手招きしているのが見えた。
「ここ、入ってみようぜ」
俺と誠の視線に気づいた輝彦はそう言うと、俺たちの是非も聞かずに「ここ」と指差した教室へ足を向ける。
「おい、輝彦!」
そう呼びかけはするが、こっちの声は輝彦まで届いておらず、輝彦はそのまま教室へと入っていってしまった。
「マジかよ……」
人混みに揉まれながら、完全に置いてけぼりを食らっていることに深く息を吐き出していると、すぐ隣にいた誠が俺の肩に手を乗せ、少し困ったような笑みを浮かべて口を開いた。
「まぁ、とりあえず僕たちも入ろうか」
「……そうだな」
普段からテンションが高めな輝彦だが、文化祭ともなるとそれも
連れ回されるこっちは、元気を持て余した子供に無理やり散歩に連れ出される年老いた犬にでもなった気分だ。きっと昨日もこんな調子で文化祭を周ったのだろう。
それに付き合ってやってる誠は、将来いい嫁になりそうだな。
と、そんなことを考えながらもなんとか人混みをすり抜けた俺たちは、輝彦が先ほど入っていった教室の前へとやってきた。
『2-1 かき氷売ってます』
入り口に立てかけられている看板には、丸みを帯びたフォントとカラフルな色使いでそう書かれてある。
1組が何の出し物をしているのかについては、昨日の時点で既に知っていた。
しかし、教室に入って商品を見てみようという気にはなれなかった。意識的にか無意識的にかは分からないが、俺はこの教室に入ることを拒絶していた。
けれど、今はその理由がはっきりと分かる。
……俺は、なるべく “あいつ” と顔を合わせたくないのだ。
あいつと何か話をすれば、自分の中の黒い部分を無理やり表に引っ張り出されそうに思えて怖かった。
「……晴人? 入らないの?」
躊躇いを覚えて、突然教室の前で立ち止まった俺を不思議に思ったのか、誠は首を傾げて尋ねてくる。
「……あぁ、悪い」
そう言って俺は下手くそな作り笑いを浮かべると、拳を固く握りしめて2年1組教室に足を踏み入れた。
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