第136話

昨日と同じかそれ以上の来場者がこの凪ノ宮祭を訪れているようで、校内はすれ違うたびに肩が触れ合うほどに混雑を極めている。


***


3-3教室で軽いミーティングを終えた後、葉原はクラスの友人たちと文化祭を見て周る約束があると言って、教室を出て行った。


壁を一枚隔てた向こう側で、沢山の人々がいくつもの音を響かせながら廊下を歩いて行く中、教室には俺と白月だけが取り残されていた。そんな俺たちの間に、決して心地がいいとは言えない沈黙が流れる。


まず最初に、その沈黙を破ったのは白月だった。



「……それで? 話っていうのは、一体何なのかしら」


いかにも疑問を抱いているといった話し方だが、白月の声には一切そんな感情は含まれていない。


きっと白月は、俺が何を話そうとしているのか、もうとっくに気づいているのだろう。


だから、俺も臆さず堂々と尋ねる。



「昨日、柏城と話してたんだってな」


「…………」


白月はそれに対して言葉を返さない。

けれど、俺は続ける。



「誠から聞いたんだ。……あいつから聞くまで、俺は知らなかった」


「…………」


再びの沈黙。


白月の目は俺の足元に向けられていて、その俯いた顔からは何の感情も読み取れない。


そんな白月を見て、俺は一度息を吸い直してから最も知りたいことについて尋ねた。



「……あいつと、一体何を話してたんだ?」



校内を取り巻く喧騒が俺たちの間を流れる静寂に小さな穴を開けていく。


教室の壁に掛けられたアナログ時計はカチコチと一定のリズムで時を刻み、やがてそれは俺の心音とシンクロした。



そうして脈がちょうど10回打ったところで、白月はようやくその小さな口を開いた。



「……別に、取るに足らないことよ。また、あの時みたいに恨み言を言われただけ。……だから、皇くんもそんなに気にしないでちょうだい」


そう言って白月は気疲れしたような笑みを浮かべると、両腕を前に突き出すようにして伸びをしだした。

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