第55話

土日を挟んで迎えた、6月第1週目の月曜日。


周りよりも1日多く休んだこともあって、体も心もすっかり調子が元に戻っている。


***


俺は今朝、普段よりも少し早めに家を出て学校へと向かった。その理由は、先日白月と交わした例の約束を果たすため。


こういう大事なことは、忘れないうちにやっておいた方がいい。それに学年が違うとなると、例え同じ学校で生活しているとはいえ、話す時間を確保するのは少々難しい。ぐだぐだしているうちに話す機会を失った、なんてことになったら元も子もない。


そういうわけで俺は、いつもより15分ほど早く登校し、彼女が在籍する1年4組の教室前で彼女が来るのをこうして待ち構えているというわけだ。彼女が在籍しているクラスについては、先程廊下ですれ違った同じ1年生の女子に尋ねて確認したから間違いはない。


俺はあまり不審に思われぬよう、あくまで通りすがりを装って4組教室を覗き見る。まだ始業の30分前ということもあり、教室内にはそれほど生徒の数は見受けられない。


窓際に背を向けながら3人で楽しそうに談笑する女子グループ。休日にやり忘れたのか、机に向かって黙々と課題を解き進める男子生徒。その他数名。


しかし、その中に目当ての人物の姿は見当たらない。まだ登校していないのだろうか?



そんなことを考えながら、教室内の様子とスマホのディスプレイに表示されている現在時刻を繰り返し確認していると、背後から数名の話し声とともに足音が近づいて来るのが聞こえた。


その足音と話し声は、ちょうど俺が今いる1年4組教室前で止まり、同時に聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。



「あれっ? 晴人くん? 何してるの、こんなところで」


ふと振り返るとそこには、栗色のショートヘアに軽くウェーブをかけ、小首を傾げながら子犬のような円らな瞳をこちらに向ける葉原夕はばらゆうの姿があった。

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