第14話

時刻は17時15分。


きっと今頃、空は真っ赤な夕陽に染められて茜色に色づいていることだろう。


それにあと1時間もすれば、街には夜が訪れる。


完全に日が落ちる前に、家に帰ろうと考えている人も沢山いるはず。


俺もその1人。

そろそろ家に帰って、残りの時間を1人でゆっくりと過ごしたい。


そんなことを考えながら、俺は下の階へと下るエスカレーターの上で白月に尋ねる。



「他に寄りたいところあるのか?無いならさっさと帰ろうぜ。あんまり遅くなると、お前の家族も心配するだろ」


まぁ、最後の一言は早く帰るための方便なのだが。それに、もう十分すぎるほど付き合ったし、そろそろ解放してくれてもいい頃合いだろう。


しかし、いくら待っても白月から言葉が返ってこない。


「おい。聞いてんのか?」


「……自分が早く帰りたいからって、私の家族のことを引き合いに出さないでもらえる?」


完全にこっちの考えを読まれている。

こいつには読心術の才能もあったのか。


「聞こえてんなら返事くらいしろよ……」


後ろに立つ俺からでは白月の表情は見えないが、明らかにイラついている気配を感じる。

家族の話をされたのがそんなに気に食わなかったのか?


6年間付き纏われているというだけでは、こいつの地雷が一体どこにあるのか理解するには到底足りない。


今後はうっかり踏んでしまわないよう、一言一言に細心の注意を払わなくては。


白月の後ろ姿を睨みつけながらそんなことを考えていると、白月はようやく俺の最初の質問に対しての返事を口にした。


「それに残念だけれど、まだ皇くんを帰すわけにはいかないわ」


「……マジか」


「マジよ」


試しに理由を尋ねてみる。


「で、どこに行く気なんだ? どうせ買いたい物なんてないんだろ?」


「…………」


「なんでそこで黙んだよ」


「……いいから黙ってついて来なさい。そしたら、ちゃんと家に帰してあげる」


「お前の許可が無いと家に帰れないわけじゃ無いからな」



正直、今までだって帰ろうと思えばいつだって帰れた。それをしなかったのは、どうして今日俺を街へ出かけるのに誘ったのか、その理由が知りたかったから。


普通に尋ねたんじゃ、こいつは答えてはくれないだろう。


だから、こいつの行動からその理由を探ろうとした。


白月の話ぶりからすると、次に訪れるところが今日最後の目的地なのだろう。


そこへ行けばもしかすると、ゴールデンウィーク最終日に俺なんかを誘った理由が分かるかもしれない。



そんなことを考えているうちに、俺たちはエスカレーターで1階の正面入り口付近まで降りて来ていた。


白月は1階でエスカレーターを降りると真っ直ぐ正面入り口に向かい、 そのままPIRCOの外へと出た。

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