第15話
外に出ると、空は予想通り綺麗な茜色に色づいていて、街全体に光が溶け込んでいた。
建ち並ぶ建造物が、街を走る自動車が、至る所に植えられている木や花が、多くの人々が闊歩するアスファルトが、沈みかけの陽光でしっとりと濡れているかのように輝いている。
そんな瞳に映る街の風景を眺めながら、俺は白月に尋ねる。
「おい、もう店はいいのか?」
「えぇ」
「じゃあ、どこに行くつもりなんだよ。まさか、変なところに連れて行かれるんじゃないだろうな」
「皇くんじゃあるまいし、そんなことしないわよ」
「俺もしねぇよ」
「……まぁ、とにかく付いて来なさいよ。どうせ目的地に着けば分かることなんだし」
そう言って白月は、人波に逆らいながら駅とは反対方向へ向かって進んでいく。
ショッピングモールや飲食店が建ち並ぶショッピング街を抜け、怪しげな雰囲気が漂う通りに差し掛かると、次第に人通りも少なくなった。一抹の不安を残しながらも、言われた通り白月の後ろを黙って付いていく。
するとしばらくして、俺たちは比較的新しい民家が建ち並ぶ見慣れない住宅街へと出た。
俺たち以外、外に出ている住民は見当たらない。
「こんなところに住宅街なんてあったんだな」
空が段々と薄暗くなるにつれて、あたりの民家からはポツポツと灯りが点き始める。
すぐ隣に見える民家からは子供の賑やかな笑い声が聞こえ、排気口からは今晩の夕食であろうカレーのいい匂いが漂って来る。
そんな『家族の暖かさ』が音として、匂いとして伝わってくるこの感じが、俺はとても好きだ。
しかし白月にとってはそうでもないらしく、俺の感想を無視して、ただひたすらに目的地に向かって足を進めている。
そうして、黙々と足を動かす白月の後に付いて更に歩いていくと、新しい民家が建ち並ぶような住宅街には似つかわしくないものが視界に入った。
「なぁ……あれ、もしかして鳥居か?」
「もしかしなくても鳥居よ」
俺たちの目の前には、神社でよく目にするような朱塗りの鳥居がそびえ立っていた。近寄って見てみると、鳥居に使われている柱は経年劣化して、所々朱塗りが剥がれている。
「なんでこんなところに……」
「行くわよ」
白月は特に驚くこともせず、その鳥居をくぐると、優に50段はあると思しき急な石段を慣れた足取りで登っていく。
白月に尋ねたいことは色々とあるが、今はとにかくこいつの後を付いていこう。
そう考えて、俺も同じように石段を1段、2段と登っていく。
石段の左右は鬱蒼とした木々に囲まれ、ここだけ世界から隔離されてしまっているかのような感覚に陥った。
石段を半分ほど登り終え、後ろを振り返ると、先程くぐった鳥居が一回りほど小さく見えた。
「何してるの? 早くしなさい」
白月は一度後ろを振り返って、途中で足を止めた俺にそう言うと、再び頂上へ向かって足を動かす。
俺は7段遅れて白月の後を追う。
今日1日の疲れもあったせいか、急な石段を50段ともなると流石に息が切れる。
肩で呼吸をしながら1段、また1段と石段を登っていく。
「人を見下ろすって、最高の気分ね」
一足早く石段を登り終えた白月は、頂上からこちらを見下ろしては、ニヤニヤと笑っている。
物理的に上から見下ろされるのが、こんなに腹が立つなんて知らなかった。
俺は残りの数段を勢いよく駆け上がる。
そうして最後の1段を登りきった先、俺の目の前にあったのは、数年、いや十数年の間手入れを施されていないように見える境内と朽ち果てた拝殿の姿だった。
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